大阪公立大学の研究グループは,1台のカメラで撮影した画像から,薄膜全体に生じた皺の大きさを測定する方法を提案した(ニュースリリース)。
薄膜は軽量性・収納性・展開性に優れた材料で,ソーラー電力セイルやインフレータブルアンテナなど,宇宙で展開する大型宇宙構造物へ利用されている。しかし,薄膜は圧縮に対する抵抗力が極めて小さく,張力バランスが崩れると膜面にすぐに皺が発生する。
膜面に生じた皺は宇宙構造物の運用性能に影響を及ぼす場合があるため,どの程度の大きさの皺が発生しているか把握することが重要となる。
膜面の皺を計測するには,膜面の表面形状を短時間かつ非接触で計測する技術が必要で,計測法の一つに画像計測法がある。しかし,対象物の3次元形状の計測には複数のカメラが必要。また,カメラの設置位置や,多くの写真を撮影することによるデータ容量の増加,計算負荷の増大といった問題が生じる。
研究ではこれらの問題を解決するため,1台のカメラで撮影した写真から,皺の大きさ(振幅と波長)を測定する方法を提案した。この手法では,薄膜の正面に設置した1台のカメラで皺発生前後の膜面の状態を撮影する。
変形前の膜面には計測点が等間隔に印刷されており,この計測点の移動量を計測する。撮影した写真から膜面の変形後の計測点の位置を測るだけでは,計測点を平面に投影した点の位置しか計測できず,カメラに向かう方向の移動量は測ることができない。
そこで研究では,変形後の計測点の位置座標と変形前の計測点の位置座標を利用して,皺の大きさを計測する方法を構築した。1台のカメラで撮影した写真からの計測結果の力学的な意味合いについて考え,膜面の皺を扱う理論(張力場理論)との関係性を検証し,そこに軽量構造力学の知見を組み込むことで,カメラに向かう方向の移動量も測定可能になった。
研究で提案した計測法を利用することで,複数のカメラを取り付けられない場合でも,膜面に生じる皺の大きさを簡易的に計測することができる。
研究グループは,現状ではこの計測法を利用するにあたっていくつか制約があるため,今後はこれらを緩和することで,この計測法の汎用性をさらに向上させる研究に取り組むとしている。