東京大学,東京科学大学,慶應義塾大学は,スキルミオントポロジーを持つ特殊な光ビームを,シリコンフォトニクス技術を用いて作製した小型光素子を用いて生成することに成功した(ニュースリリース)。
1次元的なトポロジーを持つ光渦は次世代無線通信の要素技術として確立されようとしており,物質に回転力を加える特殊なレーザー加工にも用いられている。近年ではスキルミオンと呼ばれる2次元的なトポロジカル構造を持つ光も発見され,より進歩的な光技術も登場しつつある。
これまで,スキルミオントポロジーを持つ光は主に通常のレンズなどの光学素子を組み合わせて生成されてきた。しかし,この方法では光学系自体が大きくなるため,使用できる場面が限られてしまうほか,系の安定性確保の工夫も必要で低コスト化が難しいことが課題だった。
一方,集積光回路技術の活用により,バルク光学系よりもはるかに小型・安定動作可能な光スキルミオンビーム発生器が可能となる。また,シリコンフォトニクスと同様に大量生産が可能であり,低コストで広く利用可能な光スキルミオンビーム発生器の実現が期待されていた。
研究グループは,波長程度の幅を持つ細線導波路から構成されるマイクロリング共振器に注目した。このような波長程度の光構造では強い光閉じ込めが生じ,その結果,光のスピン角運動量と軌道角運動量の間に顕著な相関が現れることが知られている。
光スキルミオンはスピンと軌道,双方の角運動量を適切に制御した光ビームを2種類重ね合わせることで偏光状態の空間的な構造として現れる。研究グループは,リング共振器上の光スピン軌道相互作用が最大化される位置に2通りの回折格子を形成することでこのような光の重ね合わせが実現できることを見出した。
実際に作製された素子は高さ220nm,幅450nmのシリコン細線から成る半径3μmのリング共振器で,導波路上に2重の直径60~70nm程度の穴が方位方向に沿って2重かつ周期的に掘られている。このような2重回折格子を持つリング共振器に通信波長帯の光を入力することでスキルミオン偏光構造を持つ光が回折され,そのトポロジーは光の入射方向や回折格子の周期数によって制御されることが確認された。
研究グループは,この成果はシリコンフォトニクス技術で実現できる微小光素子の活用により,この課題を克服できる可能性を示すものであり,光スキルミオンビームが持つ多様な可能性を開花させる要素技術となることが期待されるとしている。