科学技術計算向け高性能計算機の開発・製造・販売事業を行なうHPCシステムズと名城大学の研究グループは,標準物質の取得が困難で定性および定量分析が難しいシス型カロテノイドについて,量子化学計算を用いて超精密に分析できる技術を開発した(ニュースリリース)。
一般に,ある化合物の含有量を測定する場合,標準物質を用いて作成した検量線を利用して定量分析を行なう。しかし,シス型カロテノイドは化学的に不安定であることや,分離・精製が難しいことから,標準物質が存在しないという大きな問題がある。
そこで研究グループは,量子化学計算を用いて,標準物質が取得困難なシス型カロテノイドのスペクトルデータ(吸収スペクトル,光吸収強度など)を精密にシミュレートし,紫外可視吸光度検出器を用いた定量分析に利用されるHPLCピーク強度を補正するための係数を求めることを試みた。
もしこの補正係数が簡便かつ高精度に求まるならば,シス型カロテノイドをはじめとする希少化合物の精密定量分析の困難を解決できる可能性があるとする。
商業的に重要な3種類のカロテノイドのトランス型および主要なシス型異性体について,量子化学計算によりスペクトルデータ(吸収スペクトル,光吸収強度)を取得し,それらの計算結果からHPLC強度補正係数を求めたところ,計算されたスペクトルデータは実験値と非常に良い一致を示した。
シス型カロテノイドのような標準物質が入手困難な物質は,通常,標準物質を入手しやすい類縁化合物によって検量線を作成し,定量分析が行なわれる。しかし,紫外可視吸光度検出器を用いた場合,目的化合物と類縁化合物の検出感度が異なるため,実際の測定値(HPLC強度)から算出される含有量と真の含有量の間にずれが生じる。
今回,量子化学計算により,目的化合物(シス型)と類縁化合物(トランス型)の光吸収強度の比を極めて正確に再現し,このずれを補正する係数を算出した。その結果,量子化学計算は平均誤差約2%の精度で,補正係数の実験値を再現できることがわかった。
この補正係数を利用することにより,目的化合物(シス型)の検量線が得られなくても,類縁化合物(トランス型)の検量線を目的化合物用に補正して精密な定量分析を行うことが可能となるという。
シス型カロテノイドの精密な定量分析はこれまで非常に困難(数ヶ月以上かかることも)だったが,この研究の手法ではこの分析がわずか30分足らずの時間で完了するという。今後,この研究の手法を用いて標準物質の取得が困難な化合物の分析精度向上への応用が期待されるとしている。