弘前大,強靭な高分子材料の構造を放射光により解明

弘前大学の研究グループは,強靭でありながらリサイクル可能な高分子微粒子材料の構造を評価し,強靭化メカニズムを解明した(ニュースリリース)。

以前,信州大学の研究グループは,工業的に多く使用される高分子材料の原料であるアクリレート系モノマーのメチルアクリレートから成る合成高分子微粒子から強靭な微粒子フィルムを得ることに成功した。

強靭な微粒子フィルムは,溶媒に浸すだけで単一微粒子まで分解可能。分解後の微粒子は,フィルムを形成させる前の状態の高分子微粒子分散液に戻すことができ,再利用後のフィルムの強靭性は元のフィルムに遜色なく,リサイクルできることがわかった。

しかし,容易に分解できるにも関わらず,なぜ丈夫で高強度なフィルムができるのかはわかっておらず,微粒子フィルムの構造を詳細に評価し,強靭性の起源を明らかにする必要があった。

研究グループは,微粒子フィルム内に存在する微粒子同士の界面(微粒子間の接着面)が強靭性を解明するうえで重要な要素ではないかと考え,非常に明るい光を物質に照射し,散乱してくる光から物質の構造を解析できる放射光X線散乱法を微粒子フィルムに適用した。

測定対象は,メチルアクリレートから成る高分子微粒子フィルムで,粒子内部の高分子鎖を橋かけし,架橋の度合を段階的に変えることで高分子鎖の動きを制御した。架橋が多く施された微粒子フィルムは,微粒子同士の接触面で高分子の鎖が絡まり合いにくいため,すぐに破断し,脆くなる。

一方で,架橋度合いが少ない微粒子フィルムは,高強度かつ壊れにくいことがわかった。放射光散乱による解析により,この強靭な微粒子フィルムは水溶媒乾燥時に微粒子同士が強く融着し,数nmの深さで高分子の鎖が絡まり合っていることがわかった。

さらに,高速原子間力顕微鏡法や分子動力学シミュレーションなどの最新の評価技術を駆使し,フィルム内の微粒子の変形性や運動のしやすさが架橋度で変化していることがわかった。また,微粒子フィルムを伸ばした状態で,放射光を照射するその場測定も行ない,微粒子が変形する様子を観測することで材料が破断するまでのナノ構造を解析することにも成功した。

微粒子接触面で高分子鎖が深く絡まり合っていることで材料がよく伸び,高い強度を示すことがわかり,数nmレベルの構造の重要性を明らかにした。 

研究グループは,この発見は,リサイクル可能,かつ強靭な高分子材料を作製するために必要な情報を提供し,環境や人体への負荷が少ない機能性材料の開発に貢献するとしている。

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