東北大学の研究グループは,蛍光化ペプチド(FiBiT)を用いたGPCRの蛍光標識手法と,最大4色同時に細胞内の蛍光色素1分子を観察できる顕微鏡システム「多色1分子計測システム」を開発した(ニュースリリース)。
緑色蛍光タンパク質(GFP)やその改変体を用いた蛍光標識は1分子イメージングでもよく用いられるが,蛍光タンパク質の多くは低分子の蛍光色素に比べて輝度・光安定性に劣ることや,標識率の調整ができない。
そのため,タンパク質タグを用いた低分子蛍光色素による標識法などを組み合わせ,複数の分子をそれぞれ異なる色で標識することで多色の1分子イメージングが行なわれている。しかし,市販されている高性能な蛍光色素と蛍光標識手法の組み合わせは限られており,4色同時1分子イメージングは困難だった。
今回研究グループは,蛍光修飾・親水化配列を付加したHiBiTペプチドを合成し,LgBiTをつないだGPCR(LgBiT-GPCR)を発現した細胞の培養液に添加することで,生細胞表面のLgBiT-GPCRを蛍光標識できるか試みた。
この時,異なる4種類の蛍光色素で修飾したFiBiTを同時に添加し,多色1分子計測システムで観察した。その結果,4色のFiBiTで標識されたLgBiT-GPCRが形質膜中を側方拡散し,互いに結合・解離を繰り返す様子を観察することができた。
また,FiBiT標識法が既存のHaloTag・SNAP-tag標識法と同時に使えることも確認し,将来的に4種類の異なる分子の同時計測にも利用できることを示した。FiBiTによって標識されたLgBiT-GPCRは,これまでの研究で示されてきたHaloTag融合GPCRと同様に,活性化後に形質膜中の動きが遅くなり,シグナル伝達分子との相互作用が変化することを確認した。
FiBiTにより標識されたLgBiT融合GPCRはNanoLucルシフェラーゼとしての機能も持つため,蛍光・生物発光の両方で生細胞表面のGPCRの観察を可能にする。
この有用性を調べるために,プレートリーダーを用いた,バルク計測を行なった。GPCR作動薬処理を行なったところ,GPCRの細胞内へのエンドサイトーシスを蛍光・発光の両方で検出できることを確認した。
これらから,FiBiT標識法は検出方法に応じてタグを交換することなく,1分子イメージング・フローサイトメトリー・発光プレートリーダーアッセイなどの多用途で薬効評価に応用できることが示された。
研究グループは,今後1分子・1細胞・細胞集団の多様な階層で薬効の評価が可能になり,創薬への貢献が期待されるとしている。