茨城大学の研究グループは,低コストかつ高性能な短波赤外域(SWIR)イメージセンサーの実現を目指し,マグネシウムシリサイド(Mg2Si)基板を用いたフォトダイオード(PD)リニアアレイの開発に成功した(ニュースリリース)。
Mg2Siは,短波赤外域(SWIR,波長0.9~2.5µm)に感度を持つ半導体材料であり,その特性からSWIRイメージセンサーや受光センサーへの応用が期待されている。
Mg2Siは,地殻中に豊富に存在するシリコンとマグネシウムから構成されており,安価かつ大量生産が可能で,環境負荷も低い。これまで研究グループは,データ駆動科学を用いた結晶成長技術の最適化により,直径50mmの高品質なMg2Si単結晶の育成に成功している。
今回,Mg2SiのPDリニアアレイ構造を作製するために,Mg2Si基板を用いた開発を行なった。まず,垂直ブリッジマン法を用いてグラファイトるつぼ内でn型Mg2Si単結晶(n=1×1015~1×1016cm−3)を成長させ,結晶を切断加工することでMg2Si基板を作製した。
次に,基板の裏面にはアルミニウム(Al)を熱拡散し,n型側のオーミック電極を形成した。基板表面にはプラズマCVD装置を用いてSiO2層を成膜し,フォトリソグラフィーによってパターニングを施した。銀(Ag)を電子ビーム蒸着またはスパッタ法で堆積し,熱拡散によってpn接合を形成した。
さらに,リフトオフプロセスとCF4エッチングガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)を施し,p層上にAu/Niリング電極を形成した。これらの工程を経て,画素サイズが80µm角,ピッチ200µmの8画素/列のPDリニアアレイを試作した。
性能評価として個々のPDにI‐V 測定および分光感度測定を行なったところ,単一PDと同様の暗電流密度と整流性,分光感度特性を得た。Mg2Si基板上でのpn接合形成は,熱拡散というシンプルなプロセスで達成されており,大量生産する際には製造コストが大幅に削減されることが予想されるという。
また,画素数は少ないが,8画素/列のリニアアレイ構造としての均質に製造が可能なことも確認した。今後はさらなる高画素化が見込まれるほか,研究グループは,ダイナミックレンジに寄与する暗電流についても,2桁程度下げるための改善を進めたいとしている。