大阪大学の研究グループは,キラルな半導体高分子を開発し,電流中の電子のスピンの向きを70%程度の効率(スピン偏極率)で同方向にそろえたスピン偏極電流を発生させる,スピンフィルターとしての性質を見出した(ニュースリリース)。
電子スピンの向きをそろえた電流であるスピン偏極電流はキラルな物理量であるため,スピン非偏極電流では実現できない特殊な性質や機能が期待されている。
最近まで,スピン偏極電流の発生には外部磁場が不可欠と考えられてきたが,近年,ホモキラルな分子や物質に,電子スピンの向きがランダムな電流を通過させると,電流の電子スピンの向きがそろうCISS効果が発見された。
このCISS効果は,希少元素を一切含まない有機分子を単純にスピンコートしただけの有機薄膜などにおいても観測されるため,簡便で新しいスピン偏極電流の発生方法として期待されている。
このような塗布によりCISS効果を示す物質として,固体表面上で安定な薄膜膜を形成することができるホモキラルな半導体性のπ共役高分子が大きな可能性を有している。しかし,キラルな側鎖を有するπ共役高分子のCISS効果について,これまで,単純な回転塗布による薄膜はCISS効果をほとんど示さないことが報告されていた。
今回,研究グループは,高い電荷輸送特性を示すインダセノジチオフェン(IDT)骨格自体にキラリティを導入した二面性キラルIDT骨格を開発し,それを含むキラルな半導体性の高分子poly-(S,S)-ITD,poly-(R,R)-IDTが,回転塗布で簡単に薄膜を成膜でき,その20nmほどの膜厚の薄膜がCISS効果により,70%近い偏りを持つスピン偏極電流を発生させる優れたスピンフィルターとして機能することを明らかにした。
約70%というスピン偏極率は報告されているキラル半導体高分子の中では最高クラスの値。今回開発した二面性キラルIDT骨格を含むキラル半導体性高分子が優れたスピンフィルターとして機能した原因の詳細は不明だが,CISS効果を観測できた一因は,回転塗布で均質なアモルファス膜をできることが挙げられるという。
また,高いスピン偏極率を示した理由としては,導電性に直結する主鎖のIDT骨格自体がキラルであることが起因している可能性が考えられるとしている。
研究グループは,酸素発生や酸素還元などのクリーンエネルギー技術につながる用途を高効率化できる他にも,次世代3Dディスプレーの発光素子となる円偏光有機発光ダイオードの開発などでの活用が見込まれるとしている。