東京農工大学とロームは,6G通信(Beyond 5G)での使用が期待されている周波数帯の0.3テラヘルツで,メタサーフェスと共鳴トンネルダイオードを融合することで,鋭い指向性を持つ円偏波を発生させることに成功した(ニュースリリース)。
現在,急速に普及が進んでいる5G通信で使用されているミリ波よりも10倍以上周波数が高いテラヘルツ波帯の電磁波は,6G通信や7G通信などでの使用が期待されている。
テラヘルツ電磁波を操るためには,シリコンなどの自然材料で作られたドーム状の厚みを持ったレンズなどの光学素子がよく用いられている。しかしながら,テラヘルツ電磁波を発生させるテラヘルツ発振器への集積化に向けて,光学素子を薄い平面構造にする必要がある。
今回,鋭い指向性の円偏波の発生に用いた光学素子は,平面レンズと円偏波変換板の2つの機能で構成されている。平面レンズにより共鳴トンネルダイオードから放射された放射状のテラヘルツ電磁波を鋭い指向性の平面波に変換し,円偏波変換板により平面波を円偏波に変換している。
平面レンズは,誘電体のシートの表と裏にテラヘルツ電磁波の波長の数分の一程度の大きさのメタアトムと呼ばれる微細な構造を配置したメタサーフェスによる人工構造材料で作られている。このメタアトムのパラメータを調整することで,屈折率,反射率,透過率などの光学特性を調整している。
研究グループは,テラヘルツ電磁波が伝搬する際に減衰しにくい材料であるシクロオレフィンポリマーの表と裏に銅のワイヤーを配置することで,平面レンズと円偏波変換板を作製した。作製した平面レンズと円偏波変換板の2つの機能で構成した光学素子を共鳴トンネルダイオードに搭載し,鋭い指向性の円偏波の発生をショットキーバリアダイオードで確認した。
共鳴トンネルダイオード単体からはy軸方向のみの電界を有するテラヘルツ電磁波が放射されているため,共鳴トンネルダイオード単体の実験ではx軸方向の電界は観測されない。一方で,平面レンズと円偏波変換板の2つの機能で構成した光学素子を共鳴トンネルダイオードに搭載した場合,電磁波の電界の向きが変換され,x軸方向の電界とy軸方向の電界は同程度になっており,x軸方向とy軸方向の両方に電界が振動する円偏波が発生していることが分かった。
研究グループは,平面レンズと円偏波変換板の2つの機能で構成した光学素子の実現は,光渦,超高指向性,自由自在な波面制御などのその他の魅力的な機能への展開が可能なことを示唆しており,6G通信,7G通信,センサ機器,イメージングなどの実現に大きく貢献できるとしている。