富山大ら,レーザー照射と痛みの関係を分析

富山大学と帝人ファーマは,ラットの坐骨神経にレーザーを照射することで脊髄後角表層ニューロンが一時的に増加するものの,痛みに伴う逃避反応は引き起こさないことを発見した(ニュースリリース)。

低出力レーザー治療は,痛みの緩和,抗炎症効果,発毛促進,傷の治癒など,さまざまな効果が報告されている。日本では炎症による疼痛の緩和に保険適用があり,リハビリテーション領域で使用されている。近年はより深部の組織へレーザーを届けるために,レーザーの高出力化も注目されている。

しかし,高出力レーザーを使用すると皮膚の痛みや熱傷のリスクが高まるため,安全でかつ効果があるレーザー強度を見極めることが求められている。これにより,患者にとって最適な治療法が提供できるようになる。

そこで研究グループは,レーザーそのものが神経活動および痛みの感覚に与える影響を明らかにするために,電気生理学的手法と行動学的手法を用いて検討した。

成熟ラットの脊髄後角の表層および深層に記録電極を刺入し,レーザー照射中の脊髄後角の神経細胞の発火を記録した。脊髄後角の表層は痛覚を,深層は触覚を伝える神経線維が入力する部位であり,それぞれ痛覚および触覚に相当する神経活動を記録することができる。

まずラットの坐骨神経に対してパワー密度1000mW/cm2(波長808nm,パワー0.79W,照射面積0.79 cm2,照射時間180秒)のレーザーを,皮膚を切開して露出させた坐骨神経に直接照射し,電気生理学的な記録を行なった。

その結果,脊髄後角の表層(痛覚情報入力部位)ニューロンの発火がレーザー照射中に一時的に増加し,照射後は,照射前と同等に戻ることが確認された。一方で脊髄後角の深層(触覚情報入力部位)ニューロンの発火は変化しなかった。

次に脊髄後角の表層で一時的に発火頻度が増加した強度(1000mW/cm2)のレーザー条件が痛みを生じさせるか,ラットを用いた行動試験を行なった。その結果,痛みの指標とされる逃避反応は見られず,発火頻度が増加した強度は痛みには相当しないことが分かった。

一方,強度を上昇させた9500mW/cm2のレーザーを使用した場合,ラットが逃避反応を示すことがわかった。これにより,1000mW/cm2のレーザー強度は,痛みを引き起こさない安全な条件であることが示唆される。

研究グループは,レーザーの作用が神経生理学的に詳細に解明されることで,より安全なレーザー治療につながることが期待されるとしている。

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