農工大ら,3種類の光学素子を1枚の超薄型素子に統合

東京農工大学,情報通信研究機構(NICT),早稲田大学は,メタサーフェスを利用して,レンズ・プリズム・波長板の3種類の光学素子を1枚の超薄型素子に統合することを実現した(ニュースリリース)。

光を高度に利用するためには光学素子を多数利用する必要があるが,1つ1つがガラスや結晶材料で作られるため,大型かつ高価になるという問題点があった。

今回研究グループは,メタレンズに関する研究を発展させ,プリズムと波長板の機能を追加することで,レンズ・プリズム・波長板の3種類の光学素子を1枚の超薄型素子に集積化する技術を開発した。

メタアトムと呼ばれる光の波長より小さいサイズの構造体を配列して光を制御するメタサーフェスは,数ミクロン程度の薄さで様々な光学的機能を実現できることから,次世代の光学デバイスとして注目されている。今回開発された集積化素子は基板上に半導体の製造プロセスを用いてメタアトムを配列したものであり,非常に薄型であるだけでなく大量生産も可能な特徴を持っている。

今回,ルビジウム(Rb)小型原子時計に用いられる波長795nmで動作するメタサーフェスを開発した。これは,レンズ・プリズム・波長板の3機能を1枚に統合した多機能集積化メタサーフェスで,光源から入射する拡散直線偏光を,円偏光の平行光に変換して,角度を変えて出射することができる。

設計ではまず初めに,長方形断面をもつ水素化アモルファスシリコン柱構造(メタアトム)の電磁場解析を行ない,偏光のx方向成分とy方向成分との間に1/4波長(90度)の位相差を生成できる寸法を抽出した。

そして,偏光間の位相差を保ちつつ,全体の位相遅延を0~360度の間で自在に制御できるよう設計し,縦298nm×横2,384nmの範囲に8本の異なる寸法の柱を並べることで,プリズムと波長板の2機能の統合ができることを確認した。詳細な誤差解析をおこなって,寸法誤差が回折効率・集光効率に与える影響を調査した。

実験ではプリズムと波長板の2機能の統合と,レンズ・プリズム・波長板の3機能統合に取り組んだ。3機能統合では,0.3mm×0.3mmの範囲内に360種類の異なる寸法の柱を配置した。2機能統合では回折効率72.8%,3機能統合では集光効率77.3%を達成し,高い性能を示すことができた。

この多機能集積化メタサーフェスは1枚の超薄型素子で光の伝搬方向・集束性・偏光状態を高効率に同時精密制御するものであり,大量生産にも対応する。研究グループは,スマートフォンに搭載可能な超小型原子時計への応用が期待される成果だとしている。

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