立教大,X線偏光でブラックホール近傍の変化を観測

立教大学の研究グループは代表的なブラックホール連星「はくちょう座X-1」のX線偏光観測衛星IXPEによる偏光観測により,1秒スケールの増光現象に付随して偏光の状態が変化することを世界で初めて発見した(ニュースリリース)。

ブラックホール周囲の降着円盤およびコロナからのX線は,その形と位置関係に従った偏光状態を示すため,X線の偏光度と偏光角を測定することができれば,降着円盤およびコロナの詳細な位置関係を詳細に調べることができる。

IXPEは主に2から8キロ電子ボルトのエネルギーを持ったX線の観測を行なう。研究グループははくちょう座X-1の短時間増光を捉えるべく2022年6月に観測されたデータの解析を進めた。このときX-1はX線スペクトルの形状から周辺のコロナからの放射が優勢な状況だった。

研究では,1秒スケールの増光現象をとらえ,その変動に伴う偏光を解析するために,短時間増光集積法による偏光検出を行なった。1秒スケールの増光現象一回一回からの偏光情報はデータ量が乏しいため,短時間増光集積法は,明るさの時間変化から急速に増減光するイベントを探し出し,足し合わせることで1つの「集積された」増光現象として考える。

研究グループはIXPEの観測結果にこの解析を取り込み,プロファイルを作成した。この結果は1秒程度で急激な増光を示しており,X線天文衛星「すざく」で同様の解析をした結果と一致した。

秒スケールでの変動に伴う偏光の情報の変化を調べるために,時間をずらしながら2秒ごとの平均(移動平均)を求めた。最も明るくなる時に偏光度が低くなり,偏光角が明るさのピークの前後で変化する様相が示された。

観測時間全体での平均の偏光度はおよそ4%だが,短時間変動の中ではおよそ5%から3%に変化していた。さらに,ピーク前後で比べると偏光度はおよそ5%から2.5%,偏光角は約-25^∘から約-45^∘に変化していた。これは,ピーク直後の2秒間で偏光の情報がもっとも変化していることを示している。

これは,明るさの増減に付随した偏光状態の変化について,最も明るい状態のときに降着円盤かコロナ,もしくはその両方がブラックホールに落ち込んでいくことによって説明がつくという。これにより,降着円盤の内側からの無偏光の放射が多くなったり,コロナと降着円盤からの偏光角の異なる光が混ざりあったりしたことで,偏光度が低くなり,偏光角も変えたと考えているという。

これは,ブラックホール近傍のダイナミックな構造変化について偏光を用いて観測的に示した初めての例。研究グループは,ブラックホール近傍の強重力場での降着流の物理の検証につながるとしている。

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