京都大学,東京大学,東北大学は,原子配列に秩序が無いと思われていたガラスに潜む秩序を抽出し,可視化することに成功した(ニュースリリース)。
日常的に使われているガラスには,「緩やかな不規則ネットワーク」と呼ばれる構造がある。これは特定の酸化物(SiO2やB2O3など)だけが作り出せるもので,一般的なガラスは例外なくこれらネットワーク形成物質を多く含んでいる。
これに対して研究グループは,ネットワーク形成物質を含んでおらず,通常の方法ではガラス化しないような組成でも,無容器法を用いることで,超高屈折率ガラス,超高弾性率ガラス,硬くて割れにくいガラス,巨大磁気光学ガラスなどができることを示してきた。
これらのガラスは組成や機能性だけでなく,その原子配列にも大きな興味が寄せられている。構造解析からは,これらのガラスでは非常に歪んだ局所構造ユニットが密に詰まっており,そのため従来型のネットワークはほとんど発達しておらず,一般的なガラスにすらなれないガラス,と見なされてきた。
今回研究グループは,そうしたガラスの中で特に「超高屈折率ガラス」として知られるBaTi2O5ガラスに注目した。これまでの研究でこのガラスは,一般的なガラスよりも歪んで密に詰まった原子配列を持っていることがわかっていたが,さらなる調査で,結晶のように高い秩序を持っていることが判明した。
新たに開発した,原子配列の秩序性を可視化する手法(還元原子配列(RAA)マップ)を用いることで,ガラス中のいずれの原子を中心としても,その周囲約5Åの範囲にある原子は,最密充填配列に近い位置にいることがわかった。
このことから,BaTi2O5がネットワーク形成物質も無いのにガラス化したのは,物質全体を通して最密充填配列から各原子がほんの少しずつずれたため,と考えることができる。このような原子の並びは,一般的なガラスで見られる不規則ネットワーク構造とは全く異なるもの。
原子配列の秩序性という点では,結晶と一般的なガラスとの中間に位置しているとも見なせる。そして,無容器法で合成可能な他の高機能ガラスも同様の原子配列を有していることがわかってきた。
今回開発した手法により,秩序のないガラスに関して「原子配列の秩序度」という概念を定量化することができた。研究グループは今後,原子配列を精密に操作してガラスの特性を向上させようという,新たな道が開かれるとしている。