【解説】伸縮可能な太陽電池が衣服を電源化する?

理化学研究所,東京大学,中国南京大学,中国西安交通大学,スイス連邦工科大学チューリッヒ校は,高性能かつ伸縮可能な有機太陽電池を開発した(ニュースリリース)。

有機太陽電池の柔軟性を生かした応用を実現するためには,高い変換効率(PCE)と機械的な強靭さが必要。しかし,透明電極に適用可能な材料は見いだされていなかった。

研究グループは透明電極として,導電性高分子材料「PEDOT:PSS」に「ION E(4-(3-エチル-1-イミダゾリオ)-1-ブタンスルホン酸)」を添加したところ,伸縮性が向上し,引張ひずみが増加しても抵抗の増加を大幅に緩和した。また,大きな引張ひずみ下でも亀裂の進行が著しく抑制された。

ポリウレタン基板と透明電極との界面の特性を評価したところ,ION Eを含まない導電性PEDOT:PSSの接着力は,ION Eを含むものよりも大幅に低かった。堅固な界面接着により,透明電極の面内亀裂の駆動力が減少し,亀裂の発生と伝播が遅れ,透明電極の伸縮性が向上していることを確認した。

発電層は,二つの高効率ドナー材料(PM6とD18)を混ぜてランダム三元共重合ポリマードナー「Ter-D18」を合成し,近年有機太陽電池として使われている低分子アクセプター材料「Y6」と混合してTer-D18:Y6を作製した。

Ter-D18:Y6から成る発電層と透明電極とポリウレタン基板とを備えた複合フィルムは,発電層の機械的特性が改善した。ION Eを添加した透明電極を含む複合フィルムは,亀裂の伝播が著しく抑制され,ION Eを含む伸縮性の高い透明電極は,伸縮性有機太陽電池全体の機械的完全性(高い伸縮性)を保証することを確認した。

この複合フィルムに,液体金属共晶ガリウムーインジウム(EGaIn)から成る上部電極を備えた電子輸送層フリーの有機太陽電池を作製したところ,伸長前に短絡電流密度(JSC)が25.18mA/cm2,開放電圧(VOC)が0.84V,曲線因子(FF)が0.67,PCEが14.18%と,PM6:Y6から成る発電層の有機太陽電池よりも優れた値を示した。

さらに伸縮性は,52%の引張ひずみで初期PCEの80%を維持し,これまでに報告された全ての高性能伸縮性有機太陽電池を上回った。さらに,10%および20%の引張ひずみの100サイクル後も,それぞれ初期PCEの95%および85%を維持し,顕著な伸縮サイクル耐久性を確認した。

研究グループは,衣服に貼れるエネルギー源として,ウエアラブルデバイスやe-テキスタイル用の電源開発に貢献するとしている。

柔軟性を持った基板上にエレクトロニクスデバイスを構築するフレキシブルデバイスが注目を集めています。光技術関連では,話題のペロブスカイト太陽電池はもちろん,古くはここで登場する有機薄膜太陽電池から折り畳める携帯電話に搭載される有機ELディスプレーなど,実用化に至った製品も少なくありません。

今回のフレキシブル太陽電池は「曲がる」からさらに一歩先を行く「伸びる」デバイスに焦点を当てたものです。当然「曲がる」デバイスよりも難度は格段に上がり,特にデバイス内で機械的強度を求められる配線や電極といった部品にどうやって伸縮性を与えるかが問題となります。

この研究では,導電性高分子材料に添加剤を加えることで透明電極に伸縮性を持たせることに成功していますが,この他にも,例えばNHK技研では「伸びる」LEDディスプレーを開発しており,ここでは配線にガリウム系の液体金属を用いることで伸縮性を確保しています。

「曲がる」太陽電池として脚光を浴びるペロブスカイト太陽電池が世界的に熾烈な開発競争となる中,次世代技術である「伸びる」太陽電池で一歩抜きんでることが期待される研究です。一方,服に貼るというアプリケーションで言えば,繊維を基板(心材)とする太陽電池技術もあり,服に直接織り込めるという意味ではこちらの方が相性が良いかもしれません。(デジタルメディア編集長 杉島孝弘)

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