【現地レポ】横国大,日本の半導体産業をチップレットで巻き返す「SQIEセンター」を設置

SQIEセンター開所式ではテープカットが関係者を招いて行なわれた
SQIEセンター長/社会価値イノベーションラボ ラボ長 真鍋 誠司氏
SQIE副センター長/社会価値イノベーションラボ 為近 恵美氏
SQIE副センター長/半導体ヘテロ集積ラボ ラボ長 井上 史大氏
半導体・オブ・ザ・イヤー2024 半導体製造装置部門「優秀賞」を受賞した「新たなチップ集積手法によるDie-to-Wafer ハイブリッド接合技術の開発」によるウエハー
井上氏は文科省 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞も「半導体3D集積技術と次世代応用の研究」において受賞している
先端集積デバイスラボ ラボ長 吉川 信行氏
量子インターネットラボ ラボ長 堀切 智之氏
フォトニクスラボ ラボ長 武田 淳氏

横浜国立大学は2024年4月,半導体・量子集積エレクトロニクスに関する学術の研究と新技術の社会実装を加速する研究拠点として「半導体・量子集積エレクトロニクス研究センター」( Semiconductor and Quantum Integrated Electronics Research Center:SQIEセンター)を開所し,6月19日に開所式を同大教育文化ホールにて執り行なった。

SQIEセンターは,半導体「後工程」の研究力を強化し,我が国の半導体産業のサステナビリティの確立に寄与することを目的として設立された。未来のありたい社会像(ビジョン)実現に向けて多様な研究分野が学際的に連携し,理想の社会構築を目指すビジョンドリブン型の高等研究院である,総合学術高等研究院の5つの実践型アカデミックセンターの一つとなる。

同センターは,半導体工程の設計からプロセス,実装,そして社会応用を見据えた5つのラボを設置。これにより,同大が強みとする,量子デバイス,光デバイス,超伝導デバイスといった次世代デバイス研究のチップ化を進め,複数チップを3次元積層して性能を高める,いわゆるチップレット技術によるヘテロ集積化技術の研究開発,さらには社会実装の実現を目指す。

挨拶においてセンター長を務める,同大大学院国際社会科学研究院 国際社会科学部門教授の真鍋 誠司氏は,SQIEセンターの波及効果として,「我が国への当該分野における研究力強化や技術革新,新産業の創出をもたらすとともに,半導体産業が集積する横浜・川崎エリアに企業の協力を得てパイロットラインを構築し,『日本版IMEC』とも言える産学連携クラスターを創出する」とした。さらに成果を世界へ発信することで「我が国の半導体・量子集積エレクトロニクスにおけるプレゼンスの向上に繋げたい」とし,設置する5つのラボについて各ラボ長が紹介を行なった。

■ 社会価値イノベーションラボ
ラボ長:真鍋 誠司氏(SQIEセンター長兼任)
同ラボは,真鍋氏の専門であるオープンイノベーションを通じ,半導体におけるイノベーションエコシステムの構築,大学発技術の社会実装マネジメント,地域/企業コミュニティのマネジメントによって,大学発技術が社会に普及・定着するメカニズムについて理論化を進める。具体的には,新横浜~横浜~横浜国立大学を面として捉え,集積する半導体関連企業とユーザー,大学のエコシステムの構築を目指す。

また,SQIE副センター長で応用物理学会副会長の為近 恵美氏(地域連携推進機構 教授)もメンバーを務め,これまで培ってきた人脈を活かし,日本半導体製造装置協会(SEAJ)との連携,教育や若手人材を通じ,同センターの社会的価値の創造とイノベーションを推し進めていく。

半導体ヘテロ集積ラボ
ラボ長:井上 史大氏(大学院工学研究院 システムの創生部門 准教授,SQIE副センター長兼任)
ここでは,必要な技術ノードのデバイスだけ高い生産性で作って繋げる,チップレット技術の開発を進める。これまで大学の研究室では,ごく小さなウエハーを用いて研究をしてきたため,その成果を産業に移転しようとしても,スケールの違いから上手くいかないことも少なくなかった。そこで同ラボでは,初めから産業で使われる300mmウエハーを使い,量子/超電導技術ともコラボした研究,実証を通じて,高度な異種3D集積技術「ヘテロジーニアスデバイス」の実現を目指す。

同ラボでは早くも成果を上げており,井上氏は,ディスコ,東レエンジニアリングと共同で開発した,「新たなチップ集積手法によるDie-to-Wafer ハイブリッド接合技術の開発」により,半導体・オブ・ザ・イヤー2024(主催:電子デバイス産業新聞)半導体製造装置部門の「優秀賞」を受賞している。

先端集積デバイスラボ
ラボ長:吉川 信行氏(先端科学高等研究院 教授)
先端半導体デバイス,超伝導デバイス,スピントロ二クスデバイス,ナノデバイスなど,従来の半導体デバイスの限界を超える新規デバイスと,その集積化技術の研究を推進する。また,半導体ヘテロ集積ラボや他のラボと連携し,新規デバイスを集積化することで,新たな技術分野の創生とそれらの産業化を目指す。

量子インターネットラボ
ラボ長:堀切 智之氏(大学院工学研究院 知的構造の創生部門 准教授)
量子デバイスのグローバル接続基盤となる,量子インターネット実現に向けた研究開発を推進する。量子インターネットは,現行インターネット同様に光で世界中をつなぐことが想定されているが,その長距離化に向けた,量子中継の研究開発を行なう。

そのため,光ファイバ量子通信技術や量子インターネットに接続される量子コンピュータとの光-物質接続方法など,半導体を含む様々な物質と光の量子系に関する多様な研究開発を,理論・実験の双方からアプローチして進める。

フォトニクスラボ
ラボ長:武田 淳氏(大学院工学研究院 知的構造の創生部門 教授)
半導体をベースとした光機能素子や光集積回路,光センサの技術開発や,原子層物質・半導体ナノ結晶などの新規機能性材料を用いた光要素技術の開拓を目指す。

具体的には,光集積型LiDARセンサの高性能化,光無線用アンテナ集積光変調器の開発,分布型光ファイバセンサの高性能化,極限時間空間分光の開発,シングルショット分光の開発,量子共同現象の可視化・制御に取り組む。

同センターの大きな特徴は,世界が鎬を削る2nmプロセスのような最先端露光技術のような前工程の実現を目指すのではなく,日本にアドバンテージがあると言われる後工程に重きを置き,さらにはその応用,つまりユーザやアプリケーションの開拓や,オープンイノベーション,エコシステムの構築に価値を見出そうとしていることだ。同センターと協力関係を打ち出す東京工業大学学長の益 一哉氏が祝辞の中で「半導体産業の『再興』ではなく,新しいものを『創り出す』気持ちで挑んで欲しい」と言ったように,流行にとらわれることなく,独自の視点による研究開発が行なわれることを期待したい。(デジタルメディア編集長 杉島孝弘)

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