キヤノン,高性能回折格子発明で朝日新聞社賞を受賞

キヤノンは,公益社団法人発明協会が主催する令和6年度全国発明表彰において,「次世代天文観測を実現する高性能回折格子の発明」で,「朝日新聞社賞」を受賞したと発表した(ニュースリリース)。

全国発明表彰は,日本の科学技術の向上と産業の発展に寄与することを目的に,公益社団法人発明協会が,多大な功績をあげた発明を表彰するものであり,「朝日新聞社賞」は全国発明表彰において10点ある特別賞の一つ。

受賞したのは,同社生産技術本部の杉山成氏と田中真人氏。なお,受賞する当該法人の代表者として,同社代表取締役会長兼社長CEOの御手洗冨士夫氏も発明実施功績賞を受賞した。

この発明は,天文観測などに用いられるイマージョン回折格子に関するもの。従来の表面反射型の回折格子は,CH4(メタン)などの一般的な分子は観測できたが,観測精度(=波長分解能)の不足により,生命の起源解明につながるとされる炭素と酸素の同位体を含む微量分子の観測が困難だった。

しかし,高屈折率材料の中を光が透過するイマージョン回折格子は,屈折率に比例して観測精度が高くなり,宇宙空間上の物質を,分子のみならず原子レベルで検出することが可能になる。

またイマージョン回折格子は,表面反射型の回折格子と比較して飛躍的に小型化しても同等の観測精度が得られるため,人工衛星への搭載や,天体望遠鏡の小型化につながることも期待されている。

しかし,高屈折率材料は割れやすいという欠点がある。レンズや半導体露光装置などの精密部品製造で培った独自の超精密加工技術により,数μm幅の階段状の加工を実現しても,光の散乱を引き起こす凸部の欠けを完全になくすことはできないという課題に直面した。

そこで「欠けをなくすのではなく,その散乱作用を不能にする」という発想の転換により,凸部を鋭角に加工して光が通過する経路から逸らすという特異な構造を発明した。これにより,理論値に近い分光性能が得られるイマージョン回折格子の開発,ならびに赤外線分光器の小型化を実現した。

この発明により開発したイマージョン回折格子は,日本および欧州の天文台への導入や人工衛星への搭載が予定されているほか,医療や環境分野などの天文観測以外での活用も期待されるとしている。

なお,同社はこれまでにCdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛),Ge(ゲルマニウム),InP(リン化インジウム)のイマージョン回折格子の開発に成功しており,近赤外線から遠赤外線に至るまで,天文分野における赤外波長(1μm~20μm)のほぼ全ての領域の分光をカバーできているという。

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