北海道大学の研究グループは,酵素の加水分解作用をコントロールすることで,性質とサイズの揃ったメゾスコピック粒子を簡便に作成するナノ粒子材料作成法(BNS法)を発明した(ニュースリリース)。
約10~1000nmの大きさを持つナノ粒子物質はメゾスコピック粒子と呼ばれ,従来のナノ材料とは異なるユニークな性質を持つことがあるが,その作成には高い技術力が必要だった。
研究グループではこれまで,半導体性ナノ粒子(量子ドット)やナノカーボン材料について,化学合成をベースとした新材料の研究開発を行なってきた。今回,酵素分解可能な構造を連結部位として,量子ドットまたは有機分子同士をコア部分として互いに連結したミクロンサイズの構造体をまず作成した。
このとき,量子ドットまたは有機分子をコア部分として用いると,連結部位の酵素分解反応が途中で止まり,粒子サイズの揃ったメゾスコピック粒子が得られることを発見し,このナノ粒子作成法を「生体触媒ナノ粒子成形法(BNS法)」と名付けた。
BNS法を用いて,オリゴリシンペプチドを連結部位とするメゾスコピック粒子を作成した。オリゴリシンペプチドはアミノ酸のリシンが多数連結したものであり,タンパク質分解酵素の一つであるトリプシンによって分解される。
BNS法による粒子生成のメカニズムを明らかにするために,オリゴリシンペプチドを連結部位,コア部位に周辺環境に応じて光吸収特性などが変化するポルフィリン分子としたメゾスコピック粒子を合成し,その光応答などを調べた。
その結果,BNS法を適用するのに必要な連結部位の長さや,連結部位の長さの調整によってコア部位の光吸収能力や光をトリガーとした活性酸素発生能力の制御が可能であることが明らかになった。
さらに,この組み合わせだけでなく,ヒアルロン酸とその分解酵素であるヒアルロニダーゼの組み合わせなど,いろいろな酵素分解性基質と分解酵素の組み合わせに幅広く応用できることが分かった。
また,オリゴリシンペプチドを連結部位として,発光性の量子ドットをコア部位に用いたところ,生体内での血中滞留性が良いとされる約80nmサイズの量子ドット集合体によるメゾスコピック粒子(ms-QD)の合成に成功した。
ms-QDは,光照射することで自身の居場所を知らせる光ラベルとして機能する上,オリゴリシンペプチドは細胞に取り込まれやすい。研究グループでは,この両者の性質を利用してms-QDが薬物キャリアとして働くことを実証した。
研究グループは,今後のナノ材料開発における原料の組み合わせに,膨大な数の選択肢を提供することができる成果だとしている。