京都大学の研究グループは,バルクの金属面にごく薄い金属膜を蒸着したものをターゲットとして使用し,極薄金属膜のみをレーザーで選択的に除去することによって,超高品質な極浅構造を作成した(ニュースリリース)。
ある閾値以上のエネルギー密度(フルエンス)を持つレーザーパルスを固体ターゲットに集光照射すると,レーザーアブレーションと呼ばれる現象が起こって表面物質が局所的に除去される。
この現象を利用した材料加工がレーザー加工だが,レーザー照射に伴うターゲット表面の加熱溶融によって,レーザー加工痕の周囲にはクレーターまたはリムと呼ばれる盛り上がりが発生してしまう。ナノ秒レーザー加工の場合には熱の影響が大きいため,このリムの発生は特に顕著だが,パルス幅の短い,ピコ秒/フェムト秒レーザー加工の場合には熱の影響が極めて小さく,リムの発生はほぼ抑えることができる。
しかし,これは単一パルス照射をした場合で,同一箇所にパルスを多重照射して深い穴を作成したり,あるいは,レーザーを空間掃引しながら多重照射してライン状の構造を作成する場合は,ピコ秒/フェムト秒レーザー加工でもリムが発生してしまう。
また,レーザービームは通常,ビーム断面の中心部が最も強度が高く,周辺にいくにしたがって強度が徐々に低下するガウス型の空間強度分布を有するため,加工痕も照射部分の中央が最も深くなる。つまり,特殊な光学系を用いてレーザービームの空間強度分布を平坦化しない限り,平坦な底面を持つ単一の穴を作成することは難しい。
レーザーパルスを多重照射すると,照射部位における熱蓄積効果は必ず発生し,これがリムの発生につながる。より低いフルエンスのレーザーパルスで加工をすることができれば熱蓄積効果もわずかとなり,リムの発生も最小限に抑えられるはずだと予想した。
そこで研究グループは,ターゲットをバルクの金属ではなく,バルク金属に厚さ数10nmの極薄金属膜を蒸着したものを採用し,フルエンスが極めて低いピコ秒レーザーパルスで極薄金属膜のみを選択的に除去することを試みた。
その結果,予想通り,極薄金属膜のみを除去できたうえ,ガウス型の空間強度分布を持つレーザービームを用いたにもかかわらず,ほぼ完全に平坦な底面を持つ極浅穴を作成できた。
また,レーザーパルスを空間掃引しながら多重照射してライン状の構造を作成したところ,リムがほぼない,表面粗さが1nm以下のほぼ完全に平坦な底面を持つ極浅ライン構造を作成することもできた。
研究グループは,作成した極浅構造は,多層薄膜の構造化への応用などが期待されるとしている。