東北大学と東京工業大学は,強誘電体の分極反転挙動をナノスケールの空間分解能で,かつ,従来法の300分の1の短時間で高精細な画像を観察可能な新たな顕微鏡手法を開発した(ニュースリリース)。
強誘電体は自発分極と呼ばれる,外部からの電圧の印加によって反転が可能な電気分極を有する材料であり,このような性質を利用したメモリデバイスは既に実用化されている。しかしながら,従来の強誘電体は厚さが薄くなると強誘電性を失ってしまい,デバイスの微細化や低消費電力化に限界があることが課題となっていた。
研究グループは,局所C-Vマッピング法という新たな顕微鏡手法を開発した。この手法では,走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)と呼ばれるプローブ顕微鏡を改良した計測システムを使用する。
SNDMのセンシング部は,先端がナノスケールサイズの極めて先鋭な探針(プローブ)と高感度静電容量センサから構成されており,計測サンプルにバイアス電圧を印加したときに生じるわずかな静電容量の変化を測定することができる。
強誘電体サンプルに対し,分極反転電圧を超える振幅の交流バイアス電圧を印加しながら静電容量を測定すると,バタフライ曲線と呼ばれる特徴的な静電容量-電圧(CV)曲線が描かれることが知られているが,このようなC-V曲線の測定は通常,0.1mm~1mm程度の電極を用いて測定される。
一方,SNDMプローブの測定感度は極めて高いため,同様の測定をナノメートルサイズの電極によって行なうことができる。
この計測システムを用いて測定された曲線のピーク位置やピーク面積などを解析することによって,分極反転挙動に関する情報を抽出することができる。さらに,プローブは微動アクチュエータによって移動することができ,これによって各点での測定を行なうことで,二次元画像的なデータを得ることができる。
このような計測によって,例えば分極反転電圧の面内のばらつきを直接観察することができる。この方式以外にも圧電応答と呼ばれる方法が提案されていたが,今回の提案方式では,従来手法に比べ計測時間を約300分の1に短縮することに成功した。
またこの研究では,得られた計測データの解析において機械学習を導入し,分極反転挙動の分布を画像的に表示する手法も開発した。
加えて,この計測システムでは同一観察エリアにおける表面形状像も同時取得可能であり,これと局所CVマップデータを比較することで,直接的かつ詳細に調べることができる。
研究グループは,これにより,デバイスの信頼性確保を阻害するような現象に対する理解が進み,それらの知見に基づいた材料特性の改善が促されるとしている。