理化学研究所,産業技術総合研究所,物質・材料研究機構らは,原子層ナノ物質を高Q値微小光共振器上に転写することで,従来制限されてきた2次の非線形波長変換が微弱な連続光レーザーでも高効率に発生できることを実証した(ニュースリリース)。
2次元材料のうち,セレン化タングステンをはじめとする遷移金属ダイカルコゲナイドは単層で良質な直接遷移型の半導体特性を示し,その厚みは0.7nm程度。その薄さにもかかわらず,非線形光学結晶に匹敵する巨大な非線形光学係数を持つことが示唆されてきた。
一方,高Q値シリカ微小光共振器は直径数十µm~数mm程度の小さな光素子であり,光を共鳴的に閉じ込めることで微小な入力光でも高効率な波長変換が実現できる。
しかし波長変換の効率は材料固有の非線形光学係数が支配的な要因であり,非晶質のシリカガラスでは基本波から2倍波への波長変換(第二高調波発生)や和周波発生などの利用は難しかった。
研究グループは,2次元ナノ物質と微小光共振器を組み合わせたハイブリッドデバイスを作製し,この課題に取り組んだ。
まず,単層に剝離したセレン化タングステンを高Q値シリカ微小光共振器上に転写した。作製したデバイスのQ値は転写前後で1桁ほどの低下が見られたものの,それでも1,000万程度の高いQ値が維持された。
次に,作製したデバイスを通信波長帯の連続光レーザーで励起し,可視光帯に感度を持つ分光器で波長変換光を観測したところ,第二高調波発生を確認した。さらに,二つの異なるレーザーの同時励起を行ない,和周波発生による波長変換過程によるものと考えられる明瞭な信号を確認した。
これらの結果は原子レベルに薄い2次元ナノ物質と微小光共振器の光電界モードの間で強い相互作用が働いていることを示唆する。
さらに,単層だけでなく2層および3層のセレン化タングステンを転写したデバイスを作製して比較実験を行なったところ,単層と3層を転写したデバイスでは励起波長の全域で第二高調波発生が起きた。
これは,遷移金属ダイカルコゲナイドの結晶構造の特徴である空間反転対称性の破れが,奇数層のみに現れることに由来して実効的に2次非線形光学係数を大きく変化させることによるもので,理論的な予測と一致した。
また,転写する単層セレン化タングステンの大きさと微小光共振器上の位置を変えることで,励起の光波長を大きく変えることなく波長が500nmから800nm付近までの可視光帯の広い範囲で波長変換を実証した。
研究グループは,ナノフォトニクス素子のデバイス設計の自由度が拡大するほか,新たな物性や量子的効果を観測するプラットフォームとしての展開も考えられる成果だとしている。