大阪大学の研究グループは,世界で初めて,明るい部屋でも鮮明な映像を表示可能なプロジェクションマッピングを実現した(ニュースリリース)。
LED照明などの一般的な照明器具や太陽光は,プロジェクションマッピングの対象だけでなく,周囲にあるもの全体に光を照射するため,投影コンテンツの暗い部分を見えにくくし,コントラストを著しく低下させていた。このため,プロジェクションマッピングは,照明を消した屋内や,夜中の屋外といった,暗い環境での利用が一般的だった。
このような暗い環境は,アート作品やエンタテインメントショーといった特定の用途では効果的な演出となるが,その他の用途では望ましくない。例えば,暗い環境では,デザインに参加する人々の間のコミュニケーションが難しくなることや,照明のもとでデザインを評価することができない,という課題が指摘されていた。
研究グループでは,映像を投影するだけでなく,照明器具としてもプロジェクタを利用することを発想した。そして,一般的な照明器具をプロジェクタで置き換え,プロジェクションマッピングの対象だけを照射しない照明技術を開発した。
これによって,明るい部屋の中で対象だけが暗くなるという照明環境をつくりだし,プロジェクション映像と照明との混ざり合いを解消することで,明るい部屋でも鮮明なプロジェクションマッピングを実現した。
一般的な照明器具で照らされた状況を,照明用のプロジェクタからの投影のみで再現するため,様々な技術開発が必要だった。例えば,周囲の環境をくまなく照射するため複数台の照明用プロジェクタを用いるが,このとき,一般照明を再現するために,どのような映像をそれぞれの照明用プロジェクタから投影すべきかを計算する必要がある。
しかしながら,各プロジェクタと壁や床との距離や照射角度に応じて投影結果の明るさが変わってしまう上,異なるプロジェクタからの投影映像間の重なりや,壁や床同士の間で光が反射し合う状態も考慮する必要があり,複雑な計算が必要だった。研究グループは,分散最適化と呼ばれる技術を用いることでシンプルな計算原理でこの課題を解決することに成功した。
研究グループは,今回の成果によって,自然な照明のもとで,実物の色や質感を即座に切り替えることが可能になり,工業製品やパッケージ等の視覚デザインへの応用が期待されるとしている。