日本学士院,日本学士院賞授賞を光研究2件に授与

日本学士院は,令和6年3月12日開催の第1177回総会において,9件10名(うち菊地重仁氏と小原一成氏に対し恩賜賞を重ねて授与)を決定した(ニュースリリース)。

そのうち,光学関連では2件の受賞となった。1つ目は,国立天文台ハワイ観測所長の宮崎聡氏と千葉大学先進科学センター教授の大栗真宗氏の「重力レンズ効果を用いた宇宙論研究の開拓推進」での受賞。

暗黒物質と暗黒エネルギーの実態の解明は21世紀の物理学・宇宙論の大きな課題となっている。宮崎 氏はすばる望遠鏡に搭載する超広視野CCDカメラを開発し,暗黒物質分布を精密に観測する大規模な計画を主導し,その画像データを整備して公開した。暗黒物質の重力レンズ効果で生じる遠方銀河の画像の微かな歪みの解析から,暗黒物質の分布を求めることができることを実証し,研究の道筋を立てた。

大栗氏はこれらの大規模な観測データから暗黒物質の三次元空間分布とその数十億年にわたる時間進化を読み解き,求めた膨張宇宙モデルが宇宙背景放射の分析からの結果と一致しない可能性を指摘し,超新星爆発が重力レンズ効果で時間遅延のある複数像として発現する現象の予言や,重力レンズ効果が極大となる状況を用いた遠方の単独星の観測など,具体的な成果を挙げた。両氏の研究は暗黒物質の研究において世界の追随を許さない新しい拡がりをもたらし,今回の受賞となった。

2つ目は,桐蔭横浜大学医用工学部特任教授の宮坂力氏の「感光性ペロブスカイト結晶を用いる有機無機ハイブリッド太陽電池の創成」での受賞。

宮坂氏は,色素増感太陽電池に関する長年の研究成果を踏まえ,有機物とハロゲン化金属からなるペロブスカイトの結晶を半導体に用いる有機・無機ペロブスカイト太陽電池を世界に先駆けて発明し,今回の受賞となった。

その代表的なペロブスカイト組成はCH3NH3PbX3(Pb=鉛,X=ヨウ素,ホウ素)で,溶媒に可溶なイオン性結晶であるためにこの溶液を基板上に塗布または印刷し,晶析反応(結晶化)と乾燥によって容易に成膜できる利点がある。

また,従来のシリコン結晶を用いる太陽電池に比べて,ペロブスカイト太陽電池は,厚さが10分の1以下,重さが10分の1以下の薄くて軽いフィルム状に成形できること,柔軟性に優れて形状の自由度が高いために曲面に設置することができること,製造に要するエネルギーも少なくて済むことなど多くの利点があり,極めて高いポテンシャルを有している。

低コストで大面積化が可能な高効率太陽電池は,持続的社会を構築するために不可欠なキーテクノロジーであり,エネルギー問題への貢献が期待されているとしている。

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