京大,超巨大ブラックホールの新プラズマ構造を発見

京都大学の研究グループは,超巨大ブラックホール周辺に分布するプラズマガスに,未知の構造を発見した(ニュースリリース)。

超巨大ブラックホールは,強い重力によって周囲のガスを集めることで質量を獲得し成長する。そのガスの分布や速度の情報は,超巨大ブラックホールの成長過程を理解する上で非常に重要であるにも関わらず,未解明な点が多い。

超巨大ブラックホールを取り囲むガスは,中心からの重力に引かれて降着円盤という円盤状の構造を形成する。この降着円盤は重力エネルギーを解放して,明るく光る「活動銀河核」として観測される。

そこで研究グループは,活動銀河核の高速なプラズマガスの構造を調べるために,活動銀河核の状態遷移現象と時系列データの2つに着目した。

活動銀河核の中には,急激に質量を獲得している状態と,緩やかに質量を獲得している状態を遷移するような現象を示す天体がある。そのような天体は,質量獲得の効率が変動すると同時に周囲に放射する光の強度も変動し,その変動が周辺の構造へと影響を及ぼすことがある。

研究グループは,このような状態遷移現象を対象に観測することで,構造の変化の過程から得られる新たな知見を期待して対象天体を選定した。今回,約30年間に渡って約4等級もの明るさの変動を示した,観測史上最大規模の状態遷移現象を起こした天体J1258を選定した。

研究では,観測の空間分解能を上げるために時系列データを利用した。特に,3.8mせいめい望遠鏡を用いて独自にモニター分光観測し,反響マッピングで構造を推定した。これは,降着円盤から放射される光とプラズマガスから放射される光の波長が異なることを利用した構造推定手法。

プラズマガスは降着円盤からの光によってエネルギーを獲得してプラズマ状態となっているため,降着円盤からの光の強度変化に対して時間差で追従するように強度が変化する。この時間差を光の伝搬時間として降着円盤からプラズマガスまでの距離を推定する。

これによって,J1258の中心部の構造を詳細に推定することに成功した。特に,大規模な状態遷移現象の前後を比較したことで,中心部分の高エネルギー放射の影響を受けやすい成分と受けにくい成分を明瞭に分離できた。

中心付近の高速なプラズマガスは,従来は降着円盤からの放射を受けやすい領域に一塊で分布していると考えられていたが,より内側に降着円盤からの放射を受けにくいプラズマガスが分布していることを明らかにした。

研究グループは,この成果は,超巨大ブラックホールの質量測定や宇宙の膨張速度測定の精度向上につながる,宇宙の歴史を知る上で重要な結果だとしている。

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