京都大学とパナソニックホールディングスは,合金を使った新しい構造のプラズモニックショットキーデバイスを開発し,光通信・アイセーフ波長に対応する近赤外領域の光電変換効率を向上することに成功した(ニュースリリース)。
近赤外領域において,広く普及しているシリコン(Si)光検出器は1100nmまでの光しか検出できない。インジウムガリウムヒ素(InGaAs)などを用いた光検出器はさらに長波長の光を検出できるが,欠陥のない大きな基板の作製が困難で高価という問題がある。
そこで,Siベースのプラズモニックショットキーデバイスが研究されている。研究では合金を用いてSiとの間に形成されるショットキー障壁高さを制御し,近赤外領域の光検出感度を向上することを目指し,原子レベルで平坦で欠陥がほとんどない清浄なSi基板表面に,AuAg合金を蒸着源に用いアークプラズマ蒸着を行なった。
解析により,アークプラズマ蒸着のパルス数によって異なるナノ構造がSi表面に形成されることと,上部のナノ粒子の密集度はアークプラズマ蒸着のパルス数で制御できることがわかった。
次にデバイス断面の元素分析を行なった結果,作製されたナノ構造は AuAgナノ粒子/SiO2膜/AuAg膜/Siであることが明らかになった。
さらに,AuAg膜/Si界面にシリサイドや酸化膜はなく,AuAg/Siが直接接合した均一なショットキー障壁が形成されていることがわかった。また,AuAgナノ粒子とAuAg膜は蒸着源とほぼ同じ合金組成比で制御できることがわかった。
Si基板上に形成されたAuAgナノ構造は近赤外領域でプラズモン吸収を示した。続いて,光通信領域の光(波長1310nm,1550nm)の照射では,いずれの波長も,Siのバンドギャップエネルギーに満たないにもかかわらず,光電流の発生を確認した。
これは,AuAgナノ構造におけるプラズモン吸収により励起され生成したホットエレクトロンがショットキー障壁を超え加速されSiの伝導体に注入されたことで電流が発生したことを示す。さらに,AuAgの組成比を変えたところ,Agの組成比を大きくするにつれ光電流は増大し,Au40Ag60のデバイスで最大となることがわかった。
このように電荷分離に重要な役割を担うショットキー障壁がAuAg膜の形成によってSi基板全体に均一に広がっていることも光電変換効率向上に寄与していることが明らかになった。
研究グループは,この技術は光検出器にとどまらず,太陽電池や光触媒などへの応用が期待されるとしている。