東大ら,光相転移を観測可能なX線回折法を開発

東京大学,筑波大学,仏レンヌ大学は,光照射により相転移した物質を,X線回折を観測した後に,物質を分散させた液を流して冷却することで初期化し,再度光照射を行なうことができるサンプルフロー型超高速時間分解X線回折という新しい測定法を開発した(ニュースリリース)。

光相転移は,光によって2つの状態間をスイッチングする現象で,光によって駆動するフォトニックデバイスやメモリ,アクチュエータなどの動作原理となる重要な現象。実用的観点から,光相転移が室温で起こること,2つの状態をスイッチングできる温度領域が広いこと,すなわち相転移物質としての温度ヒステリシスが広いことが重要となる。

光相転移を駆動する根本的な物理メカニズムを理解することは材料を開発する上で大切だが,これまで,温度ヒステリシス内における光相転移は,一度でもレーザー光を照射すると,一瞬で相転移をするため,室温での相転移の過程を観測することは困難だった。

研究グループは,欧州放射光施設(ESRF)にてサンプルフローシステムを用いた超高速時間分解X線回折法を開発した。この方法は,溶液中に分散させた結晶に光照射を行なうと同時に,超高速時間分解X線回折測定を行なうことで,光相転移における結晶構造変化を調べるもの。

重要なポイントは,溶媒に分散させた結晶をフローし,循環させることで光照射により相転移をした結晶を,冷却器を通して元の結晶構造に初期化することができるため,測定の積算が無限にできるようになり,温度ヒステリシスの中であっても結晶構造の変化の情報を超高速かつ詳細に得ることができるという点。なお,超高速時間分解X線回折の時間分解能は35ピコ秒。

ルビジウム-マンガン-コバルト-鉄プルシアンブルーにおける光相転移について,この手法を用いて実証実験を行なった。その結果,LT相からHT相への光相転移は,閾値以上のレーザー光強度で起こることが分かった。また,温度ヒステリシス内においてLT相とHT相の間のエネルギー障壁が,次の2つの重要な役割を担っていることが分かった。

1つ目は,光相転移の際にLT相の結晶構造を不安定化させて転移が起こるようにするためには,臨界的な体積膨張が必要であり,これが相転移におけるレーザー光強度の閾値の役割を担っていること。2つ目は,この体積膨張によって,光で誘起されるHT相が安定化し,長時間維持することができるということ。

研究グループは,今後様々な光機能性材料における不可逆現象のダイナミクスの研究への活用が期待される成果だとしている。

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