日本大学と慶應義塾大学は,量子パルスゲートと呼ばれる量子技術を光パルスの時間分解測定に応用し,超高感度光断層撮影法を開発した(ニュースリリース)。
OCTは生体内を非接触・非侵襲で可視化でき産業にも応用されるが,多重散乱した反射光よる深部画像の劣化や,スペックル雑音による空間分解能の劣化が避けられない。さらに,信号検出感度は光のショット雑音で制限され,照射光強度に制限を受ける医療診断では,~110dBの信号検出感度が限界だった。
研究では生体試料に光パルスを照射し,試料内部からの反射光により断層構造を可視化したが,OCTのように参照光との干渉を用いるのではなく,試料内部からの反射光を時間分解測定する。
時間分解測定の精度(深さ方向の分解能)は光パルスの時間幅と光検出器の時間ジッタ(光検出における時間分解能)で決まる。超短パルスレーザーで100fs以下の光パルスが使用できるが,光散乱の少ない短波長赤外領域(1.4~3μm)の光検出器の時間ジッタは500ps程度。
そこで光パルスの検出に和周波発生(SFG)を利用した。試料表面から反射で最初に戻ってくる光パルスに対してポンプ光パルスに時間遅延を与え,試料内部の異なる深さから戻ってくる光パルスをSFGにより周波数上方変換して検出する。
これにより、時間分解測定の分解能は反射光パルスの時間幅で決まる。時間遅延から光パルスの試料内部での反射位置情報と,検出された光強度(光子数)から試料の断層画像を取得できる。
生体内部で多重散乱して戻ってくる光パルス(背景雑音)の除去には,量子通信向けに開発した「量子パルスゲート(QPG)」を利用した。
通常のSFGは,周波数変換に要求されるエネルギー保存と運動量保存を満たす複数の周波数−時間モードを変換する「多モード変換過程」だが,QPGの条件を満たすSFGは特定の周波数−時間モードをもつ光パルスのみが変換される「単一モード変換過程」となる。
このQPGにより生体内部で1回反射して戻って来る信号光パルスを,多重散乱による雑音光パルスから分離する。また,QPG出力の検出に単一光子検出器を使用し,生体深部から戻ってくる単一光子レベルの光パルスを検出する。
これにより,OCTを遥かに凌ぐ信号検出感度を達成し,微弱光照射でも高いS/N比で断層画像を取得する。さらに,信号検出に干渉を用いないためスペックル雑音を大幅に抑制できる。
研究グループは今回,微弱光照射により非接触・非侵襲で生体深部の可視化に成功。100fs以下の光パルスを使えば数μmの深さ方向分解能が得られるほか,改良により140dB超の信号検出感度も期待できるとしている。