海洋研究開発機構(JAMSTEC),東北大学,ホワイトラビットは,マイクロフォーカスX線CT装置(MXCT)を用いて,世界の海洋に生息する微小な動物プランクトンである浮遊性有孔虫の殻密度と殻重量を直接,高精度に計測する方法を世界に先駆けて開発した(ニュースリリース)。
海洋酸性化に対する生物影響を評価するうえで,プランクトンの殻密度が有効な指標になる。そこで今回,MXCTを使って,動物プランクトンの殻の形態と密度をこれまで以上に精密に取得する手法の開発に取り組んだ。
様々なMXCTの撮影条件の中でもX線の質,計測に用いる素材の吟味,得られる画像の輝度データの新解釈などを厳密に行ない,もっとも高精度に計測できる手法の開発を行なった。
この方法をもとに,計測データの長期安定性を確認するため,CT値(物体のX線の「通りにくさ」を示す指標で,密度と強い相関を持つ)の再現性を計測した結果,CT値は±0.9%(標準偏差)というこれまでにない高い精度で計測できた。
次に,CT値から殻密度に直接換算するため,較正基準試料の製作に取り組んだ。研究では,99.5%以上の純度をもつ人工炭酸カルシウム結晶(直径0.005mm以下の微粒子)に異なる複数の圧縮力を段階的に加えることで,均質かつ複数の異なる密度を有する,直径0.3mm以下の試料を作り出すことに世界で初めて成功した。
ここで作成した密度が判明している複数の較正基準試料とCT値を比較し,その関係式を導出したところ,極めて直線性の高い一次式を得た。MXCTによりCT値を計測しさえすれば,この式に代入することで,直接,石灰質の殻の密度が求められる。また,MXCTで同時に計測される体積を乗ずることで,1個体当たりの重量も正確に求められる。
この式を用いて,日本近海から得られた浮遊性有孔虫の1種の1個体の殻密度と殻重量をMXCTを用いて計測した。その結果,この種の殻密度と殻重量はそれぞれ2.3±0.02g/cm3と21.8±0.28µgと示された。この精度で浮遊性有孔虫の殻密度を計測できた例は初めて。重量についても±1.3%の誤差で求めることができた。
これは,MXCT法によるプランクトンの殻密度と重量を指標とした,生物の酸性化影響を見積もる新たな研究が開くことを意味する。この方法と開発した較正基準試料で,世界各地でMXCT装置を用いたプランクトンの密度・重量計測ができる。
研究グループは,進行しつつある各海域の海洋酸性化による海洋生物への影響を定量的に明らかにするとともに,その予測につながる研究が今後加速されることが期待されるとしている。