低炭素水素の世界生産量,2040年に1億4,800万トン

矢野経済研究所は,水素製造技術および関連部材の世界市場を調査し,主要国・地域の水素関連政策,ならびに参入企業・研究機関の開発動向を明らかにした(ニュースリリース)。

近年,カーボンニュートラルの実現のために,世界各国で水素戦略の策定と関連する法整備が進むとともに,官民による水素製造技術等の研究開発への投資やサプライチェーン実証事業,水素利活用への支援が加速している。

日本においても,2023年6月に水素基本戦略が改訂された。改訂水素基本戦略では,2050年を見据えた「製造」「輸送・貯蔵」「利用」の各領域の革新的な研究開発に当たり,大学・国立研究開発法人等から企業等への研究成果の橋渡しや,社会実装に向けて関係府省庁が一体となって取り組むとした。

そして,「製造」の領域においては,①高効率・高耐久・低コストな水電解技術,②高温ガス炉等の高温熱源やメタンの熱分解,③光触媒などを活用した水素製造技術,という3つの技術を掲げている。こうした改訂水素基本戦略の内容を踏まえ,この調査では水素製造に係る革新的技術として水電解,メタン熱分解,人工光合成を取り上げ,3種の製造技術により生成される水素を低炭素水素と定義した。

水電解装置については既に各国で大型実証事業がスタートしており,2022年の低炭素水素世界生産量を10万tと推計した。また,メタン熱分解技術の社会実装は2030年以降,人工光合成は2035年頃とみており,それぞれの研究開発・プラント設置動向を踏まえ,低炭素水素の世界生産量を,2030年が4,000万t,2035年は9,800万t,2040年には1億4,800万tに成長すると予測した。

今回の調査で注目した日本の水素関連政策は,水素供給コストを2050年に20円/Nm3 (ノルマルリューベ)程度以下,水素導入量を2050年に2,000万t/年程度とすることが目標に掲げられている。改訂水素基本戦略においては,2030年までに国内外における日本関連企業(部素材メーカーを含む)の水電解装置の導入目標を15GW程度と設定し,水素製造技術の基盤確立を図ることとした。

その実現に向けては,水電解装置及び部素材の製造能力増強についても,政府による支援を検討していくことが示された。また,水素・アンモニアの大規模なサプライチェーン構築に向けた官民による投資金額は,15年で15兆円を越える計画となっている。

将来展望について,再生可能エネルギーを電源として活用する水素製造の枠組みは,温室効果ガスを排出することなく水素を得ることができるため,欧州や米国などでも重要視されている。既に豊富に存在する再生可能エネルギー電力,あるいはその供給量の拡大と送電網の増強を進めながら余剰電力も含めた安価な再生可能エネルギー電力を用いて,グリーン水素の供給コストを低減していくという道筋が世界各国の共通項となっているとする。

一方,日本ではもともと電力コストが高いことに加え,再生可能エネルギーの導入が遅れており,これが水素製造技術の普及を阻害する一因となっている。水素基本戦略は5年を目安として適切な時期に見直しを行なうとされているが,今後は国内で安価な余剰再生可能エネルギーを大量に供給できる体制づくりを明示していくことが求められるとしている。

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