千葉大学,理化学研究所(理研),広島大学は,有機半導体の励起子束縛エネルギーの精密測定に世界で初めて成功し,励起子束縛エネルギーがバンドギャップの1/4に比例することを発見した(ニュースリリース)。
有機半導体の光エレクトロニクスでは,励起子束縛エネルギーを制御することが重要だが,これまで有機半導体では励起子束縛エネルギーの精密な測定はなかった。
研究グループは,2012年に開発した低エネルギー逆光電子分光法(LEIPS)を用いて,有機半導体の電子親和力を0.05eVという高精度で測定することに成功した。これを使って励起子束縛エネルギーを0.1eVという従来の5倍の精度で決定する方法を確立した。
この方法で,有機太陽電池材料,有機EL素子などの42種類もの有機半導体の励起子束縛エネルギーを決定した。この結果をまとめたところ,励起子束縛エネルギーがバンドギャップの4分の1に比例するという結果を得て,分子の形などによらずバンドギャップだけで励起子束縛エネルギーが決まるという結果を得た。
さらに研究グループは,この結果が,水素原子モデルを当てはめると説明できることを明らかにした。このような簡単な説明ができることは,有機半導体の励起子の性質を解明する上で重要な情報となる。
これらの結果は,光エレクトロニクスと直結するもの。この研究から,有機太陽電池材料では励起子束縛エネルギーが0.2eVから0.6eV,有機EL材料では1eV以上であることが明らかになった。
励起子束縛エネルギーはバンドギャップに比例し,バンドギャップはイオン化エネルギーと電子親和力の差であることから,光エレクトロニクスデバイスで励起子束縛エネルギーを最適化するには,バンドギャップを制御すること,そのためには適切なイオン化エネルギーと電子親和力の材料を選ぶ必要があることになる。
バンドギャップは光波長と関わり,イオン化エネルギーや電子親和力は電子や正孔の注入・収集効率と関わる。応用目的に合わせて,電極材料の選択まで含めた総合的なデバイス設計が必要であり,この研究の成果はその指針を与えるもの。
研究グループは,この研究成果がきっかけとなって,励起子の性質について基礎・応用研究が急速に発展し,今後の有機半導体を使った光エレクトロニクスの材料選択やデバイス設計に役立てられることが期待されるとしている。