東大ら,交互積層型の電荷移動錯体の高伝導化に成功

東京大学,分子科学研究所,岡山理科大学,高輝度光科学研究センター(JASRI)は,分子軌道に着目した新しい設計により,交互積層型電荷移動錯体の高伝導化に成功し,一次元単結晶において室温・常圧で最高の伝導度を達成した(ニュースリリース)。

有機伝導体の材料研究は,有機伝導体単結晶は溶液加工性に乏しく,大量合成に不向きであるとされていることから遅れており,デバイス研究との間に隔たりがある。こうした隔たりを繋ぎうる次世代材料として,電子の豊富なドナー分子と電子の不足したアクセプター分子とで形成される電荷移動錯体への期待が高まっている。

電荷移動錯体は,ドナーとアクセプターが交互に積層した「交互積層型」とドナーとアクセプターが分離して積層した「分離積層型」に分類される。分離積層型錯体においては,これまでに金属状態を含む高い伝導性を示す錯体が見つかっているが,比較的得られやすい交互積層型電荷移動錯体はほとんど電気が流れないというのが通説となっていた。

こうした伝導性の低さは,ドナーからアクセプターへ移動する電子の量を示す電荷移動量δが,0〜0.4の中性領域,もしくはδ >0.75のイオン性領域にあることで,電荷輸送に携わる実効的なキャリアが少ないことが原因と考えられてきた。中性-イオン性の境界領域にある電荷移動錯体を合成すれば電気がよく流れるのではないかと期待されてきたものの,そうした錯体は数十年にわたって実現されずにいた。

研究グループでは,電子の豊富なドナー分子としてドープ型ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)のオリゴマーモデルを近年開発している。その最短の二量体およびその酸素/硫黄原子置換体が,電子不足なフッ素置換テトラシアノキノジメタン類に対して,中性-イオン性の境界領域の錯体を構築するのに理想的な電子構造をもっていることに気がついた。

こうした境界領域を実現するには,ドナーの最高占有分子軌道(HOMO)とアクセプターの最低非占有分子軌道(LUMO)の間での小さなエネルギー差をもつことが必須と予想されてきており,2O/2SドナーとF4/F2アクセプターの組み合わせは,そうした条件をよく満たす。さらに電荷移動後の分子軌道形態の対称性もよく一致しており,両軌道が強く混成した良導性のキャリアの伝導経路の実現が期待される。

この交互積層型電荷移動錯体は大量合成が可能で,また有機溶媒への高い溶解性を示し,溶液中でも長時間安定に存在することから,塗布型伝導体材料としても潜在性が高い。研究グループは,次世代の有機伝導体材料として期待が寄せられるとしている。

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