茨城大学と名古屋大学は,直径50mmサイズのマグネシウムシリサイド(Mg2Si)半導体単結晶の育成に成功した(ニュースリリース)。
禁制帯幅(バンドギャップ)が約0.6eVのMg2Si結晶は,波長2μm下での受光感度を示すことから短波赤外域の受光センサやイメージセンサへの応用が期待されている。
特に,Mg2Siが工業生産に適した融液成長法という方法で結晶成長が可能なこと,資源が豊富なシリコンとマグネシウムを原料とすること,熱拡散など汎用の製造プロセスで受光センサに必要なpn接合構造を製造できることなどから,低コストで短波赤外受光センサやイメージセンサを実現できる半導体材料として注目される。
Mg2Siの受光センサやイメージセンサの実用化に向けた開発を進めるには,直径50mm(2インチ)以上の単結晶基板ウエハーが一般的に必要になる。しかし,Mg2Siでは小傾角粒界などの結晶欠楩が発生しやすいため,単結晶での大口径化が困難で,実用開発に必要な基板ウエハーの供給の目処がたっていなかった。 このため,Mg2Si単結晶を直径50mm以上に大口径化する成長技術の開発が必要だった。
今回,研究グループは,データ駆動科学に基づくアプローチによってMg2Si結晶の大口径化に取り組んだ。具体的には,成長実験炉と同じ構造の成長系を計算機上に構築し,成長シミュレーションよって各種パラメータの結晶への影響を評価解析した。
この結果を実際の成長実験で得られたMg2Si結晶の評価データと付き合わせて成長条件を適正化した結果,直径50mmサイズの高品質Mg2Si単結晶を得ることに成功した。
大口径化による多結晶化や割れの発生の問題があったため,研究グル ープではこれら課題の解決までに当初1年間の研究期間を見込んでいた。
しかし,データ駆動科学に基づくアプローチによって約3ヶ月の限られた成長実験回数で,目標とする直径50mmサイズの,小傾角粒界を含まないMg2Siバルク単結晶およびMg2Si単結晶ウエハーを得ることができた。
現在,茨城大学の研究グループは,JX金属とMg2Si単結晶について共同で研究開発を進めており,この成果によって直径50mmサイズのMg2Si基板ウエハーの実用化に向けた開発が加速されることが期待されるとしている。