宮城教育大学,大同大学,和歌山工業高等専門学校,愛知教育大学,東北大学,早稲田大学,国立天文台(NAOJ)が,天の川銀河の巨大ブラックホールの近くにある星をすばる望遠鏡の補償光学と近赤外線装置を用いて観測した結果,この星が,100億歳以上の年齢で,天の川銀河の近くにあった矮小銀河で生まれた可能性が高いことが分かった(ニュースリリース)。
天の川銀河の中心には,太陽の400万倍の質量をもつ巨大ブラックホールいて座A*(エースター)がある。 米と独の研究グループは,いて座A*の近くにある星々の動きを30年にもわたって観察し,何もないように見えるその場所に,太陽の400万倍の質量が詰め込まれていることを発見し,ノーベル賞を受賞した。
しかし,巨大ブラックホールの近くでは,とても強い重力がはたらくため,それらの星の材料となるガスや塵は,ひとところに集まることができない。つまり巨大ブラックホールの近くでは,星をつくることができないことになる。
研究グループは,この謎に挑戦するため,いて座A*のすぐ近くにある星「S0-6」 を調べ始めた。S0-6は暗く,沢山の星が混み合った領域にあるため,観測できる望遠鏡は,すばる望遠鏡を含めて世界に数台しかない。しかしすばる望遠鏡の集光力と視力をもってしても,研究に必要なデータの収集には,8年間,合計10回の観測が必要だった。
まずS0-6が,本当にいて座A*の近くにあるのかどうか確認する必要があった。2014年から2021年にかけて,S0-6の運動を測定した結果,S0-6はいて座A*の強い重力を受けている,つまり二つの天体はお互いにすぐ近くにあることがわかった。
次に研究グループは,S0-6の年齢を調べた。年齢を知るためには,S0-6の明るさ,温度,星に含まれる鉄の量などの情報が必要。これら観測値を理論的なモデル計算と比較した結果,S0-6は,100億歳以上の老いた星であることがわかった。
最後に,S0-6に含まれる様々な元素の量を調べた。研究グループは,S0-6に含まれる元素の比が,天の川銀河の近くにある小さな銀河である小マゼラン雲や,いて座矮小銀河の星ととても似ていることを発見した。つまりS0-6の生まれ故郷は,過去に天の川銀河のまわりを回っていた,小さな銀河である可能性が高いことがわかった。
研究グループは,すばる望遠鏡の視力をよりよくするための装置を開発し,2024年にはその装置でS0-6 の特徴をより詳しく調べ,いて座A*の近くにある他の星の起源も調べる予定だという。