東京大学の研究グループは,スピン系の時間発展のシミュレーションを通じて,超伝導型量子コンピューターとイオントラップ型量子コンピューターのパフォーマンスを比較し,それぞれの特性を明らかにした(ニュースリリース)。
超伝導型量子コンピューターとイオントラップ型量子コンピューターについては,ユーザーのためのプラットフォームが用意されており,それらの性能や特徴を生かした量子アルゴリズムの開発が進められている。
ところが,現時点では,超伝導型量子コンピューターとイオントラップ型量子コンピューターの性能がどのように異なるのかを具体例のシミュレーションを基に比較した例は知られていない。そのため,これらの別々の方式の量子コンピューターを用いて,共通の問題を解き,そのパフォーマンスを比較することが待ち望まれていた。
超伝導型量子コンピューターとして,IBMが開発した量子コンピューターの最新機種であるibm_pragueを,イオントラップ型量子コンピューターとして,Quantinuumの最新機種の一つであるH1-1を用い,最も基本的な1次元3サイトHeisenbergスピン系のダイナミクスを計算し,その結果を比較することを通じて,これからの量子コンピューターを活用した基礎・応用研究への指針を与えることを試みた。
シミュレーションでは,3つの量子ビットを使用し,Suzuki-Trotter近似を使用して,時間依存ダイナミクスの量子計算を行なった。ibm_pragueの場合には,ダイナミック・デカップリング(DD),パウリ・トワーリング(PT),読み出しエラーの抑制(M3)という3つのエラー抑制を行なった上でスピンを保存しない状態を除去して波動関数を正規化した結果赤い曲線が得られ,古典コンピューターで得られた正しい曲線をほぼ完全に再現した。
一方,Quantinuum H1-1の場合は,データ点ごとに1024回の測定を行ない,各測定には約225ミリ秒かかったが,ibm_pragueの場合には,データ点ごとに50048回の測定を行ない,各測定に約1ミリ秒かかった。
各測定にかかる時間は,Quantinuum H1-1がibm_pragueに比べて約200倍の時間がかかることになる。また,データ点1つごとにかかった時間は,Quantinuum H1-1の場合には230秒であったのに対して,ibm_pragueの場合には50秒であった。
研究グループは,今回の結果は,それぞれのNISQデバイスの性能やパフォーマンスに応じて,最適なエラー抑制の方法の開発と適用が重要であることを示すものだとしている。