東大ら,フェムト秒ノイズ相関分光法を開発

東京大学,独コンスタンツ大学,大阪大学は,フェムト秒ノイズ相関分光法という新規分光手法を開発した(ニュースリリース)。

固体中では,熱によって電子や磁化が常に揺らぎ,乱雑な運動を行なっている。室温付近ではこうした揺らぎの速さはピコ秒からフェムト秒スケールに達し,相転移などの様々な現象において重要な役割を果たすことが知られている。

超高速時間スケールにおけるダイナミクス測定には従来,ポンププローブと呼ばれる手法(光パルスを照射した際の変化量を差分検出する)が用いられてきた。しかしポンプローブでは原理的に測定対象を励起する必要があるため,熱平衡下の定常状態における熱揺らぎのような乱雑運動を測るのは原理的に難しい。そのため,これまで固体における電子,格子や磁化などの揺らぎダイナミクスを超高速時間スケールで実験的に観察した例はなかった。

研究グループは,こうした平衡状態の乱雑運動を測定するためフェムト秒ノイズ相関分光法という新規手法を考案した。これは二つのフェムト秒レーザーパルスが試料と相互作用するときに生じる偏光回転のノイズを抽出し,精密に統計処理することで,磁化の揺らぎダイナミクスを自己相関として検出するというもの。

研究グループは,考案した手法を用いて磁性体オルソフェライトSm0.7Er0.3FeO3が室温付近において示すスピン再配列転移という磁気相転移中の磁化ダイナミクスを測定した。オルソフェライトはサブテラヘルツの高周波数領域に磁気共鳴を持ち,超高速レーザー光によるスピン制御の研究が進んでいる。

開発した手法を用いて磁化揺らぎの自己相関を測定したところ,相転移温度313K付近で磁化揺らぎが劇的に増大し,自己相関が振動的な波形から指数関数的な減少に移り変わる様子が分かった。古典スピン系の大規模計算との比較から,これはピコ秒程度の時間スケールで磁化の傾きが二値的なスイッチングを繰り返すランダムテレグラフノイズ(RTN)と呼ばれる運動に対応していることがわかった。

RTNはこれまで半導体量子ドット中の電荷や強磁性体ベースのスピントロニクスデバイスなど様々な物理系で観測されてきたが,ピコ秒に至る超高速領域で測定されたのは世界初の成果。

研究グループは,今回開発された測定手法は磁性体のスピン運動に限らずさまざまな物質系に適用することができ,乱雑性を利用した情報処理の高速化などに貢献することが期待されるとしている。

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