理化学研究所(理研)は,光の偏光で焦点距離を制御できるメタレンズを開発した(ニュースリリース)。
焦点距離を変化させることが可能なレンズは,可変倍率のカメラのズームレンズや双眼鏡,光学顕微鏡,プロジェクターなどさまざまな光学機器に利用されている。
最近では,スマートフォンのカメラのような小型の光学ユニットにも可変倍率の光学レンズが搭載されている。これまでは複数枚のレンズで光学系を構成し,レンズ間の距離を機械的に変化させて実効的な焦点距離を定める手法が主流だった。
しかし,機械的にレンズを動かすため,すばやく焦点距離を変えることは困難で,レンズの駆動機構が必要になるなど,光学システムそのものが複雑化,大型化するといった課題があった。
一方,メタレンズの中には,MEMS技術を利用するものも提案されていたが,同様に応答が遅く,機構が複雑化する課題を有していた。
研究グループが開発した焦点距離可変メタレンズでは,特定の方向の偏波を持つ光(偏光)にのみ応答する異方的な特性を有するナノ構造が鍵となる。このナノ構造は直方体の窒化ガリウム(GaN)で構成され,横幅や奥行きなどのサイズを変化させると,光波が照射された際にその光波に与える位相を変えることができる。さらにWとLが異なる非対称な構造を特定の方位に配列させることで,ある方向の偏光のみに位相ずれを与えることができる。
実験では,膜厚750nmのGaN層がサファイア(Al2O3)基板の表面に形成された基板を使って,GaN層を電子ビームリソグラフィ法ならびに反応性イオンエッチング法などを用いて成形し,開口数0.1と0.01の2種類のメタレンズを試作した。
偏光方向をx方向(θ=0°)からy方向(θ=90°)へ変化させるにつれて,光スポット位置が24.5mmから28.6mmへと4.1mm変化していること,ならびに光スポットのサイズは大きくは変化していないことが分かった。また試作したメタレンズのスポット位置が理論計算結果とほぼ一致していることが分かった。
さらに,焦点距離を変化させてもスポットの形状は常に円形でスポット形状の崩れがないことも確認した。試作した焦点距離可変メタレンズの構造は,波長532nmの緑色光を基準に設計したものだが,赤色から紫色の異なる波長の光に対しても焦点距離可変メタレンズとして機能することも確かめた。
研究グループは,人工構造の形状を設計すれば光機能を制御できるというメタレンズの設計の柔軟性と併せて,特定のアプリケーションの要求に合わせて精密にカスタマイズされた高性能な光学機器が実現できるとしている。