理化学研究所(理研)と九州大学は,大型放射光施設 SPring-8での放射光屈折コントラストX線CTデータについて,機械学習と転移学習を適用することで高速かつ正確な領域分割を実現し,実際に接着樹脂中のドメイン構造の可視化および特徴量の抽出を行ないその有効性を実証した(ニュースリリース)。
樹脂などはCT像のコントラストが低いため,試料の境界を強調することのできる屈折コントラスト法がよく用いられる。得られたCT像を材料ごとの領域に分割するデータ処理はセグメンテーションと呼ばれるが,これまで放射光X線屈折コントラストCTに関する汎用的なセグメンテーション解析方法は知られていなかった。
研究グループは,汎用X線CTでは区別ができない低コントラスト試料として,水を添加したエポキシ接着樹脂試料の内部構造観察を行なった。放射光X線屈折コントラストCT法により,水を添加した影響で形成されたエポキシ接着樹脂中のドメイン構造は明瞭に観測される。
通常のセグメンテーションは,画素値の違いを利用した閾値処理によるが,この方法は簡便な一方,低コントラストなX線屈折コントラストCT像では領域の内部が正しく認識されないなどの問題がある。
研究グループは,機械学習のうち医療分野で有用性が実証されている深層学習モデルU-netに転移学習を組み合わせた解析を,3次元のCT像から2次元断層像に変換した2次元画像に対して適用した。
その結果,適切な学習条件を設定することで,エポキシ接着樹脂中のドメイン構造を高速かつ正確にセグメンテーションすることに成功した。
セグメンテーション結果を利用してドメイン構造の特徴量を抽出したところ,樹脂/基板界面付近では,等価直径が10μmを超える大サイズのドメインのみが観察された。これに対し,樹脂/基板界面が80μm以上の領域では,界面からの距離によらず,平均等価直径が3μm,ドメイン体積比が4%程度と一定となっていることが分かった。
これら二つの領域の間に存在する樹脂/基板界面から27~80μmの領域では,平均等価直径は3μm程度と一定であるにもかかわらず,基板からの距離が短くなるにつれてドメイン体積比が少しずつ増加し,さらに界面に近づくと40μm以下では急激に減少していることが判明した。
研究グループは,この研究によって実証された領域分割手法は,低コントラストX線CT画像の新しい汎用的な解析手法として,多くの放射光施設で幅広く利用されていくものとしている。