東京大学の研究グループは,宇宙複屈折と呼ばれる現象に対し重力レンズ効果を取り入れた精密な理論計算を実現した(ニュースリリース)。
宇宙複屈折とは,直線偏光した宇宙マイクロ波背景放射(CMB) の偏光面が回転する現象。近年,CMBの精密観測データの解析により,その存在が 99.9%以上の確からしさで報告されている。
未知の素粒子や新物理探索の手がかりとして注目されており,近い将来予定される,宇宙複屈折の高精度な観測の活用のため,理論計算の精密化が求められていた。
そこで研究グループは,重力レンズ効果を取り入れた宇宙複屈折の理論計算を確立し,将来の解析で必須となる,重力レンズ効果を含んだ宇宙複屈折の数値計算コードの開発に取り組んだ。
研究グループは今回,宇宙複屈折のシグナルが重力レンズ効果によって,どのように変化するかを表す解析的な計算式を求めた。得られた式に基づき,重力レンズ補正を行なうプログラムを先行研究で開発された計算コードに追加し,宇宙複屈折に対する重力レンズ補正計算を,世界に先駆けて実現した。
開発した計算コードを用いて,重力レンズ補正の有無によるシグナルの違いを調べた。その結果,サイモンズ天文台など将来の地上観測を想定した場合,仮に重力レンズを無視すると,観測される宇宙複屈折のシグナルは理論予言でうまくフィッティングできず,そのような理論は統計的に排除される。
すなわち,将来観測される宇宙複屈折効果のシグナルは,重力レンズ効果を入れないとうまく説明できない。さらに,将来観測で得られる観測データを模擬的に生成した。その模擬的なデータを用いて,宇宙複屈折を用いたアクシオンの探索において重力レンズ効果がもたらす影響を調べた。
その結果,仮に重力レンズ効果を考慮しないと,観測データから推定されるアクシオンのモデル・パラメータには統計的に有意な系統誤差が生じることが分かった。つまり重力レンズ補正無しでは,誤ったアクシオンモデルを得ることになる。
以上より,将来の高精度な宇宙複屈折の観測とその分析において,今回開発した重力レンズ補正ツールは必要不可欠であることが分かった。
研究グループは,宇宙複屈折の解析において,この研究で開発した重力レンズ補正ツールは大いに活用される予定だとしている。