京都大学,武田薬品工業,分子科学研究所は,これまで実現困難であった核酸リン原子の第三級アルキル化反応の開発に成功し,新しい化学修飾核酸を合成した(ニュースリリース)。
DNAやRNAは,核酸塩基・糖の環骨格・ホスホジエステル基から構成させるヌクレオチドが鎖状に連なった高分子化合物であるため,その構成成分を化学修飾することは,新しい核酸医薬品の創出に繋がる。
特に,天然の核酸内のホスホジエステル基は生体内の酵素により容易に分解されてしまうため,代謝安定性の向上を目的としたホスホジエステル基の化学修飾が精力的に行なわれている。
中でも,ホスホジエステル基の非架橋酸素原子をアルキル基に置換したアルキルホスホン酸ジエステル修飾は,架橋部位の電荷が中性となるため,代謝安定性に加えて負電荷を有するホスホジエステル基にはない物性の付与が期待される。
しかし,従来法ではかさの低いアルキル基はリン原子に導入できる一方で,かさ高い第三級アルキル基の導入は困難だった。
研究グループは,青色LED照射下,有機硫黄化合物と第三級脂肪族カルボン酸誘導体を用いることで,二つのデオキシリボヌクレオシド構造と脱離基を持つ亜リン酸エステルのリン原子第三級アルキル化が進行することを見出した。
具体的には,青色LED照射により,有機硫黄化合物から脂肪族カルボン酸誘導体へ一電子が移動し,一電子を受け取った脂肪族カルボン酸誘導体は分解して炭素ラジカルを与える。その後,生じた炭素ラジカルが一電子を有機硫黄化合物に渡すことでカルボカチオン種を与える。
オリゴヌクレオチド合成において汎用される脱離基(シアノエチル基)のままでは,全く目的の化合物は得られなかった。
副生成物を解析することで,核酸のリン原子とカルボカチオン等価体との反応で生じる中間体において,従来のシアノエチル基の代わりにデオキシリボヌクレオシド構造が脱離してしまうことが原因であると推定した。
そこで,脱離能の高い脱離基を設計することで,目的の第三級アルキルホスホン酸ジエステルを得ることに成功した。
この手法により,かさ高い第三級アルキル基が導入された15種類の新しい化学修飾核酸の合成に成功。また,任意の位置に第三級アルキルホスホン酸ジエステル構造が組み込まれたオリゴヌクレオチド合成にも成功した。
この手法により得られた第三級アルキルホスホン酸ジエステルを有する核酸誘導体をホスホロアミダイトへと誘導し,固相合成法に用いることで,10個のデオキシリボヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを合成した。
研究グループは,新たな核酸医薬品の創出に繋がる成果だとしている。