大阪大学と京都大学は,緑色蛍光蛋白質(GFP)を改変して赤色蛍光蛋白質(RFP)を人工的に創り出すことに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
蛍光色の中でも,赤色光のような長波長の光は生体内での透過性が高く細胞毒性も低いため,組織や臓器など厚い試料の観察や長時間の観察に適している。
しかし,赤色の蛍光蛋白質(RFP)はごく一部の生物からしか見つかっておらず,蛍光が弱い上に改変してもあまり明るいものができなかった。
蛍光を出す発色団は,蛍光蛋白質内部で3つのアミノ酸が自己触媒反応を起こして自発的にできあがる。RFPの発色団の化学構造は,GFPやGFPを改変した蛍光蛋白質の発色団の構造と大きな違いがある。
RFPはGFPから進化してできたと考えられているが,天然のRFPはGFPとアミノ酸配列の違いが大きく,赤色の発色団の形成に必要な環境や,重要なアミノ酸残基がわかっていなかった。そのため,これまで明るいGFPを改変してRFPにする試みがなされてきたものの,誰も成功していなかった。
研究グループは,天然のRFPに比較的アミノ酸配列が近いアザミサンゴ由来のGFP(AG)に着目し,天然のRFPに高く保存されているがGFPには保存されていていない35か所のアミノ酸残基に注目。AGのこの35か所のアミノ酸を天然RFPのアミノ酸に変えると緑色に加えて弱い赤色蛍光を発することを見出した。
そこで,この変異蛋白質を進化させ,最終的にAGに29か所の変異を導入することで,赤い光(600nm以上)を発する蛍光蛋白質では最大級の量子効率を持つRFP,AR1.0の作成に成功した。
続いて,研究グループは29か所の変異をそれぞれ一つずつ元のAGのアミノ酸に戻すことで,赤色発色団の形成に重要なアミノ酸を特定。さらに,大型放射光施設SPring-8を用いたX線結晶構造解析によりAGとAR1.0の立体構造を詳しく調べ,構造の違いから赤色発色団形成に必要な蛍光蛋白質内部のアミノ酸配置を明らかにした。
また,研究グループは,AR1.0を細胞内で使えるように単量体化したmARs1も作成し,GFPを赤く改変した蛍光蛋白質が細胞内でのイメージングに使えることを実証した。
この研究は,天然に広範に存在するGFPからのRFPの創成に道を開くもので,停滞していた明るく高性能なRFPの開発を一気に加速させる成果。研究グループは,このようなRFPを用いれば,現在は難しい組織や臓器内といった生体深部のイメージングが生きたままで可能になり,医学・生物学研究の進展に大きく寄与するとしている。