筑波大学の研究グループは,ルテニウム(Ru)複核錯体を,自己光増感能を有する光触媒として用い,二酸化炭素から高選択的に一酸化炭素を与える光触媒的還元反応を開発した(ニュースリリース)。
現在,世界のエネルギー源の約80%を占める石油や石炭などの化石燃料は,太古の時代の大気中の二酸化炭素(CO2)が,植物の光合成によって炭化水素化合物となったものであり,化石燃料を燃料として消費することは,太古にあったCO2を現代の大気に放出することに他ならない。
CO2は温室効果をもたらすとされ,大気中のCO2濃度が上昇することで地球温暖化が進行し,さまざまな環境問題を引き起こしていると言われている。
化石燃料への依存から脱却するため,近年,化石燃料に依存しないクリーンなエネルギーとして,水力,地熱,太陽光などの再生可能エネルギーを使った発電が注目を集めている。
しかし,自然現象をエネルギー源として利用する場合,発電量が日々大きく変動して不安定な上に,得られた電気エネルギーは貯蔵が難しいという問題がある。一方,植物の光合成のように,太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換・貯蔵することで,上述のさまざまな問題を解決できると期待される。
研究グループは,Ru複核錯体を,自己光増感能を有する光触媒として用い,高選択的に燃料や化学品の原料となる一酸化炭素(CO)を与える高効率な光触媒的CO2還元反応を開発した。
光触媒としてRu複核錯体を含むジメチルアセトアミド/H2O混合溶媒に犠牲還元剤を加え,1気圧のCO2雰囲気下,中心波長450nmの光を10時間照射した結果,加えた犠牲還元剤と基質であるCO2がすべて消費され,COが99%以上の選択性で生成していることが確認された。
また450nmにおける量子収率は,最大で19.7%と決定できた。気相中の初期CO2濃度を1.5%まで下げても,このRu複核錯体による光触媒的CO2還元反応は高効率に進行し,加えたCO2をほぼすべてCOに変換できることが示された。
今回の実験条件で最も低いCO2濃度は1.5%だったが,今後は,Ru複核錯体の分子設計をより精密に最適化して触媒活性を高め,大気中のCO2濃度レベル(およそ420ppm)でも,高効率に触媒的CO2還元反応が進行する反応系を創出する予定だという。