統計数理研究所(統数研),東京理科大学,東京大学は,これまでに合成されてきた準結晶や関連物質のパターンを読み解き,熱的に安定な準結晶を形成する化学組成を予測する機械学習技術を開発した(ニュースリリース)。
準結晶は,通常の結晶のような並進対称性(周期性)を持たないが,原子配列に高度な秩序がある物質。新しい準結晶の発見は,準周期構造に特有の物性の発見とその謎を解き明かすための科学の新展開を生み出してきた。しかし,準結晶の形成や安定化のメカニズムがほとんど分かっておらず,新しい準結晶の探索は困難を極めている。
そこで研究グループは,機械学習を導入して準結晶の発見過程の加速化を図った。予測モデルの入力は化学組成,出力はその物質が準結晶を形成するか否かを表すクラスラベル。学習データとして,これまでに合成されてきた準結晶や関連物質,通常の周期結晶の化学組成を用いた。
このモデルは準結晶か否かという二値分類タスクを95%以上の精度で予測できることが明らかになり,研究グループは,安定且つ高品質な準結晶の合成に成功した蔡安邦博士(Tsai)に因み,このモデルをTSAIと名付けた。
また,機械学習のブラックボックスモデルに内在する入出力のルールを抽出することで,準結晶形成に関する五つの法則を明らかにした。この生成則は,原子のファンデルワールス半径や電気陰性度などの拘束条件を五つの単純な数式で表す。
研究グループは,TSAIを用いてアルミニウム3元系合金の全空間に相当する1,080種類の合金系を対象に網羅的なスクリーニングを実施した。その結果,185種類の合金系に準結晶相が存在すると予測された。
この中から最終的に30種類の候補に絞り込み,最初の試みとして,Al-Ni-Os,Al-Ir-Mn,Al-Ir-Feを選定し,合成実験を行なった結果,全ての系において準結晶相(Al65Ni20Os15,Al78Ir17Mn5,Al78Ir17Fe5)の存在が明らかになった。
また,これらの準結晶は,ヒューム=ロザリー則やTSAIの五つの生成則を表す直線の合流点付近に存在することが分かった。三つの準結晶はいずれも,長時間のアニーリング(熱処理)プロセスの後に観察されたため,熱力学的に安定な物質であると考えられるという。
また,透過型電子顕微鏡を用いて撮影された電子線回折パターンから,三つの物質はいずれも正10回対称の準結晶構造を持つことが明らかになった。
研究グループは,半導体準結晶や反強磁性準結晶など,人類の未踏物質の発見に機械学習が貢献する成果だとしている。