国立環境研究所(NIES)は,山小屋等に設置したタイムラプスカメラを用いて,地理情報化された植生図を自動的に作成する手法を開発した(ニュースリリース)。
将来にわたって効果的な高山植生の保全を実現するために,タイムラプスカメラは安価で簡単に広域,高解像度,高頻度の観測が可能である半面,得られる画像は一般的なデジタルカメラによるカラー写真であり,植物の分類が難しいことや,写真を整形して地図に重ね合わせること(オルソ化)が難しく,高山植生の位置や分布面積を正確に知ることが困難なことから,広域の植生分布の観測に利用された例はなかった。
研究グループは,継続的に高頻度の観測が可能なタイムラプスカメラの利点を生かし,夏から秋にかけての紅葉や落葉に伴う植生の葉色の変化パターンに着目し,その特徴に基づいて植生分類を行なった。
デジタル写真は赤,青,緑の光の三原色からなる画素で構成されている。葉色の変化はタイムラプスカメラによって画素値の変化パターンとしてとらえられ,例えば,赤く紅葉する植生は秋に赤の画素値が高くなる。
研究グループは,葉色の変化パターンを用いることで,葉の形状等が判別できないような遠方から撮影された写真においても,植生の分類が可能であると考え,時系列データの分類で高い性能を示すことが知られている深層学習モデル(LSTM)を用いて,画素値の変化パターンを7つのカテゴリーに分類した。
研究グループは,航空写真と地形モデルを組み合わせることで,山小屋に設置したカメラから見える風景のシミュレーション写真を作成し,シミュレーション写真と実際の写真の間で画像特徴に基づく対応点を自動で得る手法を開発した。
開発手法によって高精度の植生分類(平均F1値0.937),オルソ化(平均投影誤差3.45m)を行ない,植生分類図を作成することができた。植生分類では,タイムラプス写真を用いることによって,それぞれの日に撮影された一枚の写真を用いた場合と比べて大幅な精度の向上が見られ,葉色の変化パターンが植生分類に有用であることを示す結果となった。
また,オルソ化手法では,開発手法の二つの特徴(画像特徴に基づく地形と写真の対応付け,レンズ歪みの考慮)がオルソ化精度の向上に大きく寄与することが示された。
研究グループは,開発手法を他の山岳域に設置されている既存のライブカメラやタイムラプスカメラに適用することで,広範囲にわたる植生分布の把握や植生変化の発見を過去にさかのぼって行ない,気候変動影響の把握や保全方法の策定に応用することが期待されるとしている。