京大ら,苔類ゼニゴケと遠赤色光応答の関わりを発見

京都大学,東京農工大学,東京理科大学,東京農工大学は,苔類ゼニゴケにはジベレリンに関連する化合物が存在し,遠赤色光応答に関わることを明らかにした(ニュースリリース)。

植物ホルモンのジベレリン(GA)は,被子植物の成長を促進し,多くの発生過程を制御することで知られる。その生合成経路は,シダ植物や裸子植物を含む維管束植物では保存されている。

維管束植物の姉妹系統であるコケ植物は,維管束植物で活性をもつGAを生産する能力を持たないが,GA前駆体を生合成するための初期段階の酵素をコードする遺伝子を保持していた。すなわち,これらの酵素は,陸上植物の共通祖先がすでに獲得し,陸上植物に受け継がれた可能性がある。

そこで,GA前駆体が植物ホルモンとして合成されているのか,この推定ホルモンの生理活性は何かといった疑問を解決することを目指した。

研究グループは,全ゲノム解読が完了し,遺伝子を用いた実験の基盤が充実している苔類ゼニゴケを用いて研究を開始した。質量分析計を用いた分析により,ゼニゴケから生合成中間体である GA12を検出できたが,維管束植物で生理活性をもつことが知られるGAは検出されなかった。これは遺伝子の機能推定を裏付ける結果であった。

次に,生合成酵素をコードすると予想された遺伝子の変異体と発現タンパク質を用いた酵素アッセイにより,GA12とその前駆体であるent-カウレン酸(KA)を生産する主要な酵素CPS,KS,KOL1,KAOL1を同定した。

研究グループは,GA12や KA が未知のジベレリン関連ホルモン(GAMp)の生合成に関与していると予想した。これらの酵素遺伝子は,ゼニゴケに遠赤色光を照射することで遺伝子発現が誘導されることを見出し,実際に遠赤色光照射により GA12の蓄積が誘導されることが示された。

また,生合成酵素の変異体は,遠赤色光照射条件でも,上方向に成長することや有性生殖を誘導するといった遠赤色光に対する応答を示すことができなかった。被子植物は過密になると徒長するが,遠赤色光の存在比率が上がることで密集を感知することが知られている。GAMp の生合成が,ゼニゴケが遠赤色光応答に関与する点は陸上植物としての普遍性を示唆するものである。

研究グループは,ゼニゴケが被子植物で活性を示す GA を生合成しないこと,また,既知の GA 受容体分子(GID1)がコケ植物には保存されていないことから,GAMpがどのように認識されるのかを明らかにすることがGAの進化的変遷を知る上で重要な課題と考えている。

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