明治大学と情報通信研究機構(NICT)は,ナノギャップ電極を基盤とした電気化学発光セル(nano-LEC)の開発に成功した(ニュースリリース)。
分子スケールの物性研究や量子技術応用のためのナノスケール光源として,走査型プローブ顕微鏡を用いた単一分子光源や,固定型ナノギャップ電極を用いた光源が報告されている。
これらは電極から電子および正孔が分子に直接注入・再結合することで発光を得る機構,電子の非弾性トンネリングや局在表面プラズモン,真空放電を介して発光を得る機構の2つに大別されるが,電荷注入・再結合に基づく発光を得ることはナノスケールデバイスの安定性・制御性の観点から重要な課題となる。
しかしながら,これまで固定ナノギャップ電極を用いた研究では,ギャップ間分子への効率的な両極電荷注入を実現することは困難だった。
研究グループは,ナノギャップ電極を基盤としたナノスケールのLEC(nano-LEC)を開発し,その電気光学特性を解析した。具体的には,金ナノギャップ電極上に発光分子F8BTを堆積後,イオン液体P66614-TFSAを滴下することでnano-LECを作製した。
自己組織化単分子膜によりSiO2表面を疎水化することで,金電極上に選択的に分子が堆積されるように工夫している。イオン液体を除いたデバイスの原子間力顕微鏡像を見ると,ナノギャップ電極間及び電極上に発光分子が点在している様子が窺えた。
これは,電流経路がナノギャップ電極間及び電極上に限定されることを示唆している。また,作製したデバイスにおける種々の電気光学特性:一定電圧印加時に微小電流が立ち上がったのち徐々に上昇する様子や,F8BTの発光ピーク波長に対応する540nm付近での顕著な発光,電流・発光強度の温度依存性も,作製したデバイスがLECとして動作していることを強く示唆しているという。
さらに,イオン液体と発光分子を,それぞれ別々にナノギャップ電極部分に堆積するデバイス作製法は,nano-LECを安定動作させるために重要な役割を果たすことを突き止めた。
通常のLECでは,発光分子とイオン液体の混合膜を成膜するが,この手法でnano-LECを作製した場合には,電極の露出部分から意図しない発光や放電を誘発し,デバイスの安定性が著しく低下することが分かったとする。
研究グループは,nano-LECに異なる発光分子を添加し,ホスト-ゲスト系nano-LECとすることで,より少数の,ひいては単一分子による発光を固定電極デバイスベースで実現できるとしている。