大阪公立大学の研究グループは,胸部レントゲン画像から体内年齢を推定するAIモデルを開発し,推定年齢から実際の年齢を引いた年齢差とさまざまな疾患の関係を実証した(ニュースリリース)。
加齢による変化は複雑で,同じ年齢でも日常生活に介助が必要な人もいれば,自立した生活を送ることができる人もいる。こうした生物学的な老化を理解するためにさまざまな加齢のバイオマーカーが提唱されている。
胸部レントゲン画像は最も一般的な検査の一つ。入院時やさまざまな疾患の検査だけでなく,健康診断でも広く用いられている。これまで胸部レントゲン画像を用いてAIで年齢を推定する報告はあるが,複数施設から収集した健常者の胸部レントゲン画像を基にしたAIモデルの開発は行なわれていなかった。
そこで,研究グループは,年齢推定するAIモデルを,健康診断受診者から既往歴のある患者を除外した胸部レントゲン画像を基に開発できれば,加齢の新たなバイオマーカーになるのではと考えた。
研究グループは,AIのディープラーニングを用いて,健康診断で撮影された胸部レントゲン画像から年齢を推定するモデルを開発した。AIモデルの開発と検証を行なうため,2008年から2021年までの間に3施設から合計36,051人,67,099 枚(同一患者データ含む)の健康診断の胸部レントゲン画像を収集した。
収集したデータは,入力に胸部レントゲン画像を,出力に年齢を設定し,AIモデルには両データ間の特徴を学習させた。その結果,実際の年齢と推定年齢との相関係数は,0.95を示した。相関係数は通常0.9で非常に強い相関とされているので,このモデルは高い精度を示したとしている。
さらに,このAIモデルのバイオマーカーとしての有用性を検証するために,疾患と年齢差の関係を分析。検証には,2018年から2021年までの間に別の2施設から収集した,疾患のある患者合計34,197人,34,197枚の胸部レントゲン画像を利用した。
このAIモデルを用いた結果,高血圧や高尿酸血症,慢性閉塞性肺疾患,間質性肺炎,慢性腎不全,心房細動,骨粗鬆症,肝硬変などの,慢性疾患と年齢差の間にそれぞれ関連性がみられた。一方で肺炎や虫垂炎,尿路感染症などの急性疾患では関連性は示されなかった。
研究グループは,今後この研究を発展させ,慢性疾患の重症化推定,余命の予測,悪性腫瘍の予後の層別化,手術合併症の予測などへ応用することを目指して研究を進めていくとしている。