東京工業大学と産業技術総合研究所は,薄膜転写技術を用いて異種材料結晶を微小な薄膜シールに加工し,光回路上に集積する「マイクロトランスファープリンティング」技術を創出し,超小型の光アイソレータ作製に成功した(ニュースリリース)。
近年のデジタルコヒーレント光伝送技術ではレーザー光源に対する要求基準は一段と厳しくなり,従来から認識されていた中・長距離伝送をはじめ,データセンターやチップスケールの近距離伝送においても,反射戻り光をカットするための光アイソレータの集積化に大きな関心が寄せられている。
その一方,高性能な光アイソレータを構成するための結晶材料は特殊であり,その動作に欠かせない磁気光学効果を発現する結晶としてイットリウム鉄ガーネットを組み込む必要があった。
従来、構造の異なる光学結晶同士を堆積や成長などの一般的な製造加工プロセスにより一体化することは困難とされており、高機能で高性能な光集積回路を実現する障壁となっていた。
研究グループは,薄膜転写技術を用いて異種材料結晶を微小な薄膜シールに加工しシリコン光回路上に集積する「マイクロトランスファープリンティング」技術を開発し,従来研究と比較して回路面積が1/10以下となる光アイソレータの作製に世界で初めて成功した。
まず,別の種基板(SGGG)上に結晶成長したセリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG)結晶を薄膜化し,さらに中空に保持されたシール構造に加工する技術を開発した。
この薄膜シールは縦と横の長さがそれぞれ800µmと50µmで,厚さは1µm以下。次に,この微小な薄膜シールを予め形状加工された高分子エラストマーフィルムに貼り付けてピックアップし,シリコンウエハー上に形成した光回路の任意の領域に高い位置合わせ精度で転写する技術を開発した。
マッハツェンダー干渉計の一部にこのCe:YIG結晶の薄膜シールを転写し,光アイソレータを作製した。光通信で用いられる近赤外領域の光を入力し,外部磁場によって磁気光学効果を制御して光出力特性を測定したところ,順逆方向遮断比96%(14dB)の良好な光学特性が得られた。
研究グループは,薄膜転写技術について,磁気光学結晶だけでなく化合物半導体結晶や電気光学結晶,その他の多くの高機能材料にも適用可能であり,シリコンを光回路の集積プラットフォームとした,これらの異種材料結晶を集積した高機能で高性能な次世代光集積回路を実現できるとしている。