京都産業大学は,偏光撮像装置を用いて観測を行ない,この彗星に含まれているダストについて,その粒子サイズの分布が彗星コマの中の位置によらず均一であることを明らかにした(ニュースリリース)。
研究グループは,ジャコビニ・ツィナー彗星が地球に接近した観測機会をとらえて,偏光観測をはじめ中間赤外線観測,可視光高分散分光観測など多岐にわたる観測を行なった。このジャコビニ・ツィナー彗星は例年10月初旬に観測される「10月りゅう座流星群」の母天体と考えられている。
過去にこの彗星が宇宙空間に放出した小石サイズのダストがダストトレイルを形成し,地球の軌道とダストトレイルが交わったさいダストが地球大気に突入する。その際,大気との摩擦により発光し,流れ星として明るく輝くと考えられている。「10月りゅう座流星群」は流星発光中にバラバラになりやすいことが知られており,その流星体は多孔質でもろい物質であろうと考えられていた。
このことからジャコビニ・ツィナー彗星から放出されるダストも壊れやすいのではないかと予想されていた。その一方,この彗星のダストの成分として有機分子が豊富に含まれていることが明らかとなり,彗星コマ環境では壊れない可能性も浮上した。ダストが壊れやすいのか壊れていないのか,この彗星については明らかになっていなかった。
研究グループは,国立天文台の50センチ公開望遠鏡に開発した偏光撮像装置(PICO)を搭載し,この彗星に含まれるダストの性質を探るため偏光度の空間分布を取得した。
このデータの基礎的な解析において,均一な偏光度を示す可能性があることがわかった。そこで,今回,ノイズ源となる彗星の背景を通過する星の影響を可能な限り取り除いたほか,核から離れて暗くなる場所について特に丁寧に解析していった。その結果,彗星核の中心から>10,000kmにわたって偏光度が変化していないことが明らかになった。
これは彗星から放出されたダストの粒子サイズ分布がコマの場所によらず均一であり,ダストが大規模には崩壊していないことを示している。この結果は,有機分子が豊富に含まれるダストは彗星コマ環境では崩壊しにくいという,これまでの研究で得られた知見を支持するもの。この方法は,有機分子が他の彗星にも普遍的に存在するかについても,分析を深めることができる。
研究グループは,こうした研究を足がかりとして,彗星ごとのダストの性質の違いや約46億年前の原始惑星系円盤中での微惑星形成プロセスの解明,他の惑星系との比較など,応用研究への幅広い展開が期待されるとしている。