名古屋大学と北海道大学は,キラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒を用いる不斉ラジカルカチオン[2+2]及び[4+2]環化付加反応の開発に成功した(ニュースリリース)。
不斉合成法は,精密な分子合成技術を要する医薬品合成に欠かせない技術だが,枯渇性資源を用いる手法からの脱却や,未達成の不斉触媒反応の開発など,解決すべき課題が残っている。
例えば,中性分子の一電子酸化によって生成するラジカルカチオンは,通常のカチオンとは異なるユニークな反応性を示す化学種として有機反応の中間体に利用されているものの,不斉触媒反応への応用はほとんど行なわれてこなかった。
アルケンの[2+2]環化付加反応で得られる4員環骨格は,医農薬品など高機能分子に含まれる重要な骨格。その有用性から,4員環生成物を合成するための数々の不斉反応が開発されてきたが,この方法で得られる4員環生成物は,ジアステレオ混合物である点がしばしば問題となっていた。
近年,単一のジアステレオマーを得るための手法として,ラジカルカチオン[2+2]環化付加反応が注目されている。しかし,高い不斉収率を実現させるために極低温下(–100°C)で反応を行なう必要があり,それ故に長い反応時間(1–5日)を要する点に検討の余地が残されていた。
研究グループは,高活性なキラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒を開発し,適切なラジカルカチオン中間体とキラル対アニオンの組み合わせ検討することで不斉ラジカルカチオン[2+2]環化付加反応が–40°Cかつ24時間以内に完結することを見出した。この反応を用いることで,様々な原料から対応する4員環生成物を高立体選択的に得ることに成功した。
約一世紀前に発見されたDiels–Alder反応は,6員環骨格構築の最も効率的な反応の一つとして,数々の手法がこれまでに報告されている。近年,6骨環骨格の新たな構築方法として,ラジカルカチオン[4+2]環化付加反応が注目されている。
Diels–Alder反応とは異なる位置異性体が得られる有用性から,天然物合成への応用例も報告されている。しかし,高い不斉収率で目的生成物を得るための手法はこれまでに報告されていなかった。今回,新たに開発したキラル鉄(Ⅲ)光レドックス触媒を用いることで,世界初となる高選択的不斉[4+2]環化付加反応を開発した。
この手法を用いることで,不斉ラジカルカチオン環化付加反応を鍵とする新たな医薬品の合成研究が可能となる。研究グループは,SDGsと元素戦略に基づく新たな手法として,他の不斉ラジカルカチオン反応への波及効果が期待されるとしている。