昭和大学,JSR,米BaySpec Inc.,富士テクニカルリサーチ,埼玉県立がんセンターは,ラマン分光法を応用した食道・胃生組織のがん病変の迅速評価技術を開発した(ニュースリリース)。
消化管のがんは,確定診断後も,最も適切と考えられる治療法の選択や,再び病理組織診断による根治度の確認,根治度によっては再手術等といったように,検査から診断確定まで,さらに治療から根治度確定まで一定の時間を要する。
そこで研究グループは,迅速かつ正確に消化管のがんの病状を把握すること,そしてがんの病状に応じた過不足のない適正な治療を実現するための技術の一つとして,ラマン分光法を選択した。
ラマン分光法では,ラマン散乱光の波形を詳しく調べることで物質に含まれる成分や分子構造を推定することができる。評価対象は固体,液体,気体などどのような状態でもよく,特別な前処理も必要としないが,ラマン分光法は自家蛍光に大きな影響を受ける等の欠点があり,これまで生体への応用は困難だった。
研究では,自家蛍光の影響を受けづらく,かつ生体組織をいためないように設計した独自の顕微ラマン装置を使用して,内視鏡的治療により摘出された食道組織と胃組織を試料として,摘出後すぐにラマン散乱光波形(ラマンスペクトル)を記録し,その後,通常行なわれる通りにホルマリンで組織を固定して病理組織診断を行なった。
その結果,すべての組織からラマン散乱光波形を記録することができた。そして,すべてにおいて熱損傷等は発生せず,問題なく病理組織検査を行なうことができた。
ラマン散乱光波形と病理組織診断を比較すると,食道,胃それぞれのラマン散乱光波形パターンの特定の部位に適切な条件を設定することで,病理組織検査とほぼ同等の精度でがんの範囲を特定することができた。この成果は,身体の中にあるがんも評価できる可能性があることを示すもの。
測定に使用する近赤外線レーザーは,焦点を調整することで表面だけでなく深部の評価も行なうことができる。生体毒性も極めて低い。レーザーを照射してラマン散乱光を検出する部分は,光ファイバーを使って内視鏡の鉗子孔を通る形状にすることができるので,理論上はすぐに人体に適用することができる。
この技術は,検査中に「リアルタイム診断」を行ない,可能ならば同時に適切な治療を遂行する「がんのワンストップオペレーション」を実現するための重要な技術要素の一つと考えられる。研究グループは今後,評価対象を広げ,解析精度と生体毒性の有無を確認しながら研究を推進するとしている。