愛媛大,電子が光子のような電子に変わる様子を観測

愛媛大学の研究グループは,ある物質の温度を変えることで,その中の一部の電子が,光子のように非常に速い速度で動き回る特殊な電子に変換する様子の観測に成功した(ニュースリリース)。

電流をいかに早く,エネルギーの効率を高めて流すかが,その機械の性能と消費電力を左右する。現在のエネルギー問題や温暖化といった地球規模での課題の解決の行方は,日常のこうした電気の使い方に掛かっている。

今回研究グループは,電子が温度の変化のみで,量が軽く光子のような性質を示す特殊な電子に変換する過程の観測に成功した。こうした特殊な電子は,いくつかの物質で発見されており,2010年のノーベル物理学賞は,この分野での先駆的な研究に贈られた。

しかしこれまでにこうした特殊な電子が見つかっていたのは,例えば世界で最も深い海底の水圧の何倍もの高い圧力や,宇宙空間のような高真空中(圧力が事実上ゼロの世界)での原子一個分の厚さを持つ膜といった特殊な環境に置かれた特殊な物質に限られていた。

更に通常の電子でも特殊な電子でもそれらが他方に変化すること自体が稀であったため,その相互変換の機構が理論研究に頼らざるを得ない状況が続いてきた。またいずれにせよ,物質中の電子を直接見ることはかなり難しく,ましてそれが通常の電子か特殊な電子かは,見たとしても区別がつかない。

今回,研究グループは,独自に開発した物質とその関連物質の中から,こうした電子の変換が期待される,すなわち特殊な電子になりかかっていると推測される通常の電子を含んでいる物質を選んだ。

その際重要な着眼点は,圧力変化ではなく温度変化のみで当該の変換が期待されるという点で,実際この予想が的中したために今回の観測が成功した。

圧力を変えていく実験は難しいだけでなく,色々な観測上の制約を伴う。それに対し,温度を変えてくのは比較的容易で,観測上の制約も殆ど伴わない。この優位性を生かして,色々な物性測定と理論計算を併用し,両者に矛盾がないことを根拠として,電子の変換過程を明らかにした。

こうした特殊な電子は他の物質でも見つかっていたが,特殊な環境下であったため,物質中でどのようにして生じるかその経過を観測した例はなかった。

この特殊な電子は,高速の演算処理が可能なコンピューターにつながるだけでなく,消費電力が大変少ないという特徴も期待される。研究グループは,情報通信・処理機器の部品となる半導体デバイスへ応用された場合,より複雑な演算処理を低消費電力で高速に行なえるようになる可能性があるとしている。

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