東北大学の研究グループは,フェムト秒レーザーを使って炭素原子1層分の厚さからなるグラフェン膜を,100nm以下の精度で加工することに成功した(ニュースリリース)。
グラフェンを使ったデバイスを社会実装に導くには,グラフェン膜をマイクロメートルからナノメートルのスケールで効率的に加工する技術が必要となる。マイクロ/ナノスケールの素材加工・デバイス製造には,一般的にナノリソグラフィや集束イオンビーム法が用いられる。
しかし,これらの手法は装置が大掛かりであったり,加工/製造に長い時間を要したり,操作が困難といった問題があった。また,グラフェンデバイスの性能は僅かな表面状態の変質によって大きく変化するため,化学的な修飾や結晶構造の大きな乱れが生じやすいこれらの手法の適用には限界があった。
研究グループは,これまでに厚さ5~50nmのシリコン系薄膜を,フェムト秒レーザーを使って微細加工する独自技術の開発に取り組んできた。この手法を原子1層分のグラフェン膜に適用することで,膜を破損することなく,多点穴のパターニング加工を施すことに成功した。
レーザーのエネルギーと照射回数を適切に制御することで,使用したレーザーの波長(520nm)よりも小さな直径70nm程度の微細穴から,原理的には直径1mm以上の開口まで,自在な加工を施すことができると考えられるという。
穴が開かない程度の低いエネルギーのレーザーが照射された領域を観察したところ,グラフェン膜表面の汚染物が除去されていることが判明した。また,倍率を高めて原子一つ一つを分解して観察を行なったところ,グラフェン膜に直径10nm以下の細孔や,炭素原子数個が欠損した原子レベルの欠陥が多数形成されていることを発見した。
レーザーのエネルギーや照射回数を増やすと,それに比例して細孔・欠陥の密度も増加する傾向が得られたことから,細孔・欠陥の形成もレーザーを使って制御できることを確認した。
グラフェンにナノスケールの細孔や原子レベルの欠陥を形成することで,電気伝導性のほか,スピンやバレーといった量子レベルの特性を制御できることが知られている。グラフェン膜に自在に細孔・欠陥を形成できれば,量子科学分野の基礎研究をおおいに加速することができるとする。
また,グラフェン上の細孔・欠陥は高い化学修飾性を示すため,超高感度の生体センサーにも応用が期待できる。研究グループは,研究で見いだされたレーザー照射による汚染物除去の効果を応用することで,高純度なグラフェンを非破壊かつ汚すことなく洗浄する新手法の実現も期待されるとしている。